制服に着替えた彼女は、両手の親指と人差し指で作ったL字を写真のフレームのように組み合わせていた。そこから覗く顔にはほほ笑みをたたえている。
「一穂ちゃん!」
 ゆずきが声を弾ませた。
「ゆずき、今日は大胆だね」
 一穂がいたずらっぽく笑う。
 ゆずきはずっと僕の腕に自分の腕を絡めて抱きついたままだった。
 それは僕が小説に書いたことだった。
「コウくんと一緒にいたいの」
 ゆずきが僕にもたれかかる。
 その発言に一穂は一瞬面食らったようだが、「ラブラブでいいね」と笑った。
 背後に立つ楓はどんな顔を浮かべてるだろう。
「よくがんばったね、舞台」
 一穂が目を細めてゆずきに言う。
 僕はじっと彼女を観察した。
 それは本音か? それとも……。
「一穂ちゃんもありがと。すごく助けてくれて」
「ううん、わたしは別に。それよりほんとすごいよ、ゆずきは」
「えー、褒めてくれるの」
「うん、褒める褒める。わたしには出せない味っていうのかな。ゆずきらしさがすごく滲んでて、みんなを夢中にさせてたもん」
 一穂ってこんなに穏やかな顔もできるんだ。
 楽しそうに、妹を愛でるお姉さんみたいで。
 僕には正直意外だった。ふんわりとしたやわらかな空気をまとうゆずきに対して、どちらかというと一穂は、きびきびとしていて芯が強い印象だったから。
「えへへへ、うれしい」
 一穂は素直にゆずきを称え、ゆずきも変に謙遜せずに喜びを露わにした。
「ねえ、名脚本家さん」
 一穂が今度は僕を見た。
 胸がトクンと跳ねる。
 ――名脚本家さん。
 たしかにそう呼んだ。
 一穂が、僕を。