「なんで楓?」
 なんで僕じゃなくて? とはさすがに聞けなかった。
 それは僕にもわかる。だって僕は一穂に対して複雑な、言ってしまえば屈折した感情を持ってるから。ゆずきもそれを察して僕には相談しづらかったのかもしれない。
 でも、なんで楓?
 ゆずきはちらりと楓を見た。
 楓も一瞬だけゆずきに視線を合わせると、すぐに外して頭を掻いた。
「なんでこんなとこで。しかもかしこまって言わなきゃいけないんだよ」
 やはり素っ気なく、楓がこぼす。
「何がだよ」
「付き合ってんだよ」
「は?」
 ……なんだって? 頭が混乱した。
「誰が」
「俺が」
「誰と」
「一穂と」
「え、ちょ、ほんとに?」
 僕は思わずゆずきを振り返った。
 彼女が僕を見てうなずく。
「いつから?」
 ゆずきは首を傾げた。それは聞いていないようだ。
「去年の暮れくらいだよ」
 代わりに楓が答えた。
「マジか」
「悪いか」
 僕は楓の顔をまじまじと見つめた。
「お前、女に興味あったんだ」
「誰がないって言ったよ」
「女子にキャーキャー言われたって営業スマイルだけで受け流してたから」
「カノジョいるのにがっつくほうがおかしいだろ」
 そりゃそうだが……。
「なんで黙ってた」
「なんで言わなきゃいけねーんだよ」
「十年来の付き合いじゃんか」
「嫉妬されてもウザイだろ」
 グググと歯ぎしりした。
 なんだよこいつ……。相変わらず容赦ない返しをしてきやがる。
 まさか、楓と一穂が付き合ってたなんて。