バスケ一筋バスケバカの楓が、なんで僕たちの公演を観に来てるんだ?
 僕からヤツを誘った覚えはないし、ヤツが舞台に興味あるなんてことも聞いたことがない。
 ゆずきが楓に、何かを話している。
 からだが熱い。
 ゆずきも楓も同じクラスだし面識もある。たまに三人で話すこともある。
 でも、あのふたりだけで話すことって、これまでにあったのか?
 からだの熱がやばい。それなのに手は冷たくて、震えてきそうだった。
 ゆずきの顔に、時折、笑みがこぼれる。
 なんとなくほっとしたような表情。
 楓のほうも、白い歯が見えた。
 なんだよそれ。何が起こってるんだ。
 なんか、お似合いのカップルみたいじゃないか。
 思わず踵を返して茂みから離れた。
 このままふたりを見ていたら気が狂いそうだった。
 いろんな可能性を考えようとしたが、全然駄目だ。少しも頭が回らない。
 楓がここにいる理由もそうだし、ゆずきと隠れて会ってるのも、仲睦まじそうにしてるのも、自分が納得できる説明がひとつも浮かばない。
 楓がゆずきを呼び出したのか? それともゆずきから楓を?
 脳裏をよぎるのは不穏なことばかり。
 ふと、体育の授業を思い出した。
 男子はバスケ、女子はバレー。ゲームの中心には、それぞれ楓とゆずきがいた。
 どちらも身体能力が高くて華があって。見る人間が見れば、お似合いのふたりだと思っただろう。
 僕は茂みに背を向けて歩きながらもうひとつの心当たりを振り返った。
 先日の体育館裏でのこと。
『てゆーか、楓もゆずきのことかわいいって思ってるんだ』
『思っちゃ悪いか』
『へえー』
 あのときは楓を困らせようと軽口をたたいたつもりだったのに。
 まさかすでにヤツの気持ちの核心をついてたとか?