すでに日は暮れかけていたが、空はまだ明るい。
 市民ホールは自然公園の一角にあるため、周囲には緑があふれ、花壇や芝生も広がっていた。
 僕はなんとなく周辺をぶらついてみた。
 涼しげな時間帯のせいか、ウォーキングや散歩をしているひとたちも多い。
 すると――。
 ホールをから少し離れた茂みの中に、制服姿の女の子が見えた。
 あの横顔は……え?
 ゆずきだった。
 あれ、もう着替え終わってたのか。
 それにしても、あんなところでどうしたんだろう。
 僕の立ち位置からは数メートルくらい離れていてよく見えない。
 待てよ。
 ゆずき、誰かと話してる?
 目を凝らすと、彼女の前にもうひとり立っていた。
 え、ちょ、どうして……。
 僕は荒くなる呼吸を押さえながら、ゆっくりと茂みに近寄る。
 ゆずきの前に立つ影はけっこうな上背があった。男子だ。
 心臓の鼓動がどんどん騒がしくなる。
 茂みの隙間から見える男の横顔は……、
 普段から口数少ないくせに、女子の前では人当たりがいい、僕とは腐れ縁の――
 楓だった。