カーテンコールを終えて袖に戻ったゆずきは、興奮冷めやらぬ顔で僕のもとへと駆け寄ってきた。
「コウくーん!」
 はしゃぐゆずきはさっきまでの堂々とした表情から普通の女の子に戻っていた。
「ねえ、どうだったかな」
「感動した。ほんと、頑張ったね」
 僕は彼女の頭を優しく撫でる。
「よかったあー」
 ゆずきの無邪気な笑顔に満足感が滲んだ。
 そのまま舞台裏の地下通路に移ると、他の役者たちも集まってきて舞台の成功を喜んだ。
 その中心はやっぱりゆずきで、メンバーみんなが彼女を称えた。
 僕はその輪には加わらずに、少し外から歓喜に沸く様子を眺めていた。
 それは……ゆずきが僕のもとから離れてしまったようで、どこかもどかしかったのかもしれない。
 役者チームが舞台衣装から制服へ着替えを済ますまでの間、演出チームは順番にアンケートを回した。このアンケートには観客からとった僕たちの舞台の感想が書かれていた。
 演出を担った部長や舞台監督、演出補佐の姉さんたちが口々に、書かれたコメントを読み上げた。どの感想も好評だった。
 そして、
「ほんと、ゆずきへの賞賛の声がすごいなあ」
「よっぽど魅力的だったんだよ」
「どの稽古よりも本番がずば抜けてよかったしね」
「彼女はまだまだすごいポテンシャル秘めてると思う」
「どんな作品でもゆずきが魅力的にしてくれるさ」
 みんながゆずきのことを語った。
 僕も回ってきたアンケートに目を通した。
たしかに絶賛ばかり。
 ただ、それなのに、なんだろう。どこか残念な気持ちもあった。
 ストーリー展開の面白さ、とか。
 印象的なセリフ、だとか。
 そういう部分に対するコメントが少なかったから?
 みんなが惹き付けられたのは、僕の脚本じゃないってこと、か。
「浮かない顔してどうした?」
 いきなり部長に声を掛けられてはっとする。
 浮かない顔をしてたのか、僕は。
「いえ、公演がうまくいってほっとしたっていうか、ちょっと力が抜けちゃって」
「コウのおかげだよ。ありがと」
 部長、あなたやっぱりいいひとだ。
 僕は軽く会釈し、
「ちょっと外の空気吸ってきます」
と伝えて会場を出た。