体育館の中からは、相変わらずボールが床を打ち、バッシュがキュッキュと鳴り、演劇部員たちが声を上げていて、なかなかに騒がしい。
 体育館に入る間際の楓が、座ったままの僕に言った。
「前さ、コウに、ほどほどに頑張れって言ったけど、あれ訂正な」
 いつの話をしてるのかと記憶を巻き戻す。
 ゆずきが現れて混乱しまくって、僕が楓に確認しに行ったときか。
「お前、もっと頑張れ」
 そう言い残して、やつは体育館の中へと消えた。
 ――なんなんだよ、まったく。
 教祖っぽくなったり、僕のお母さんみたいになったり、それに最後のは何様だよ。
 見上げると、樹木と体育館の隙間から雲ひとつない空がのぞいた。
 風は止んでいる。
 いや……。
 楓はもしかしたら、教祖でもお母さんでもなく、もうひとりの僕なんじゃないか。
 いわば写し鏡――なんて、それこそヤツに影響を受けたわけじゃないだろうに……思わず哲学的な境地を切り開きそうになった。
 ゆずきの頑張りはうれしいんだ。
 彼女がみんなに認められたことも誇らしい。
 そこに偽りはあるか?
 ない。

 じゃあ、なんだろう、このモヤモヤは。