とりあえず楓の隣に腰を下ろす。
「大御所はいいな、暇そうで」
ヤツからの先制ジャブ。
ゆずきが現れた世界で、楓にとっての僕は、最初から演劇部の新作脚本を担う中心的人物だと認識しているようだった。そこはゆずきの出現前と比べて記憶が補正されていた。
「嫌味かよ」
「皮肉だよ」
さすが十年来の友は、僕の立場も精神状態もよくわかってらっしゃる。
たしかに暇してふらりとここへ来たわけだが、ズバリ言われるとやっぱりちょっとイラっとする。
「何か悩みがあるんなら、楓お兄さんに相談してみ」
僕が言い返さないのを不審に思ったのか、楓がまたジャブを打ってきた。
「誰がお兄さんだよ」
「洒落っ気だろーが」
「悩みなんかねえし」
あっても、楓に相談するくらいならSNSに綴って見知らぬフォロワーから同情を乞うほうがましだ。
「ないわりには冴えない顔してるじゃん」
この毒が心地よいと感じる僕はやっぱちょっと病んでるんだよな。
僕が押し黙っていたせいか、
「あ、わりい」
楓が急に謝った。
「その顔いつもだったな」
いや、謝ってない。さらにディスってきた。
「それ、僕の両親に失礼だそ」
「いやいや、コウの顔、作りはいいんだけど、育ちと性格が悪いほうに滲んでるんだよ」
楓がにへらと笑う。
育ちと性格の悪さだったら僕はこいつの足元にも及ばない。
「人間てのは業が深いよな」
楓が続けた。
続けたというか、なんかいきなり悟り開いた?
「業ってなんだよ」
「カルマ」
「お前、新興宗教団体でも作る気か」
「作んねーよ、そんな胡散臭いもの」
いきなり「業が深い」とか言い出すバスケ部男子は胡散臭くないのか……。
「コウは欲深いってこと」
「僕のどこがよ」
これには全身全霊をかけて反論したい。
ほんとはもっとゆずきとデートしたいのに、彼女の稽古を優先して見守ってるし、演出陣の指導に口出ししたいところをぐっと押さえてるだろうに。
「大御所はいいな、暇そうで」
ヤツからの先制ジャブ。
ゆずきが現れた世界で、楓にとっての僕は、最初から演劇部の新作脚本を担う中心的人物だと認識しているようだった。そこはゆずきの出現前と比べて記憶が補正されていた。
「嫌味かよ」
「皮肉だよ」
さすが十年来の友は、僕の立場も精神状態もよくわかってらっしゃる。
たしかに暇してふらりとここへ来たわけだが、ズバリ言われるとやっぱりちょっとイラっとする。
「何か悩みがあるんなら、楓お兄さんに相談してみ」
僕が言い返さないのを不審に思ったのか、楓がまたジャブを打ってきた。
「誰がお兄さんだよ」
「洒落っ気だろーが」
「悩みなんかねえし」
あっても、楓に相談するくらいならSNSに綴って見知らぬフォロワーから同情を乞うほうがましだ。
「ないわりには冴えない顔してるじゃん」
この毒が心地よいと感じる僕はやっぱちょっと病んでるんだよな。
僕が押し黙っていたせいか、
「あ、わりい」
楓が急に謝った。
「その顔いつもだったな」
いや、謝ってない。さらにディスってきた。
「それ、僕の両親に失礼だそ」
「いやいや、コウの顔、作りはいいんだけど、育ちと性格が悪いほうに滲んでるんだよ」
楓がにへらと笑う。
育ちと性格の悪さだったら僕はこいつの足元にも及ばない。
「人間てのは業が深いよな」
楓が続けた。
続けたというか、なんかいきなり悟り開いた?
「業ってなんだよ」
「カルマ」
「お前、新興宗教団体でも作る気か」
「作んねーよ、そんな胡散臭いもの」
いきなり「業が深い」とか言い出すバスケ部男子は胡散臭くないのか……。
「コウは欲深いってこと」
「僕のどこがよ」
これには全身全霊をかけて反論したい。
ほんとはもっとゆずきとデートしたいのに、彼女の稽古を優先して見守ってるし、演出陣の指導に口出ししたいところをぐっと押さえてるだろうに。