あたたかくて、羽毛のようにやわらかくて、春風のように心地よくて。
 その声音には、耳に届くたびに癒される。
 そして彼女の感情表現。
 目、指先、足先、背筋――同時にコントロールすることが難しいひとつひとつの動きをごく自然に最適解へと導くことができるのは、天性の才ともいえる。
 ゆずきが役をものにするのに苦戦するようだったら、僕は自分の小説に舞台の成功を書き加えるつもりだったけど……。
 いまのところその必要はなさそうだった。
 僕はなんとなく手持ち無沙汰を感じて体育館を出た。
 すると――休憩中だろうか、ちょうど楓がいた。
 体育館の裏はコンクリートになっていて、ヤツはちょうど、裏口扉の一段高くなったところに腰かけていた。首にタオルをかけて、手にしたスポーツドリンクをぐびぐびとやっている。
「うっす」
 声を掛けると、楓も僕を一瞥してからけだるげに、
「おう」
と答えた。
 相変わらずこいつは僕の前だと一パーセントの愛嬌も見せない。
 もしこの瞬間女子たちが声を掛けてたら、オーバーリアクションこそしないまでも、軽く白い歯を見せてほほ笑むくらいのことはしていたはずだ。