「このあとエフェクト当てて」
「ゆずき、その動作、もっと大きく両腕開こう」
「じゃあそことそこ、バミるか」
「サスで、ころがし、そのあとピンスポ」
「もうちょっと雑黒用意できる?」
 部長や舞台監督を中心とした演出家チームがせわしなく指示を飛ばしていく。
 ここ数日間、部室兼稽古場で繰り返してきた段取りを、今日は体育館の舞台を使って確認していた。つまり本番同様の仕様で。
 ダンディー(我らが顧問)が体育館組の運動部に交渉して、なんとか舞台側の反面を貸してもらえたのだ。ちなみにもう半分は男バスが使っている。
 それにしても、照明兼大道具をしていた頃は、受ける指示の多さとその動きのめまぐるしさに記憶が飛びそうになるほどだった。照明っていうのは操作も微調整も大変だってのに、その気苦労がわかってない演出家連中は、一声上げればそれがすぐに実現できると勘違いしている節がある。
 でもいまは、僕は脚本だけを担当しているからほとんど出番がない。
 なんて楽なポジション……。
「コウ、このシーンのセリフ、もうちょっと短くできる?」
 やることといえば、たまに演出家チームにオーダーを出されてその場で書き直すことくらい。
 本当は舞台に寄っていって役者のセリフの言い回しの相談なんかを受けてもいいんだろうけど。ヒロインを降りた一穂が演出補助のようなポジションで ずっと舞台周りにいたから、あまりあちらには近づかないようにしていた。
 正直、彼女と話すのがなんとなく気まずかった。