彼女がヒロインを演じたら、どうだろう。
 もともと今回の物語は、ゆずきがヒロインだったら、と想定して書いた話だ。ある意味、当て書きしたようなものだった。だから逆に、一穂が演じるには難しい役どころともいえた。
 僕が書いた脚本を、ゆずきが演じる――。
 ゆずきの容姿はひいき目に見なくたって舞台映えするはずだし、彼女の性格はこのヒロイン役にぴったりはまる。
 キレイ系、美人系の一穂に対して、ナチュラルなかわいさのゆずき。
 ゆずきが最適だ。
 そうだ。
 思い描いていた夢が、早くも叶う。
 いや、でも……。
 イメージとしてはばっちりなんだけど、懸念があるとすれば――
 いまから稽古を始めるには、時間がなさすぎる。
 それに、そもそもゆずきには演技経験がない。演劇部には所属しているものの、マネージャー的立ち位置の裏方専門だし。いきなりヒロインに抜擢したところで、発声や活舌の訓練、立ち回りの基本を一から始め、かつ、ほかの役者とのセリフのテンポ、演技の間まで覚えるのは至難の業だ。
 こっちが勝手に推したところで、ゆずきには荷が重い。
 彼女を苦しめることになるかもしれない。