「――というわけで、ヒロイン役には代役を立てようと思います」
次期部長という響きに酔っていた僕にかまわず、部長は淡々と議事を進行していた。しかも、その場の重苦しい雰囲気を察してか、あえてその口調はやわらかめで。
一穂の症状については、私見を挟まず正確に説明していた。
一時的なもので、安静にしていればいずれ直ること。
舞台で声を張るような発声はできないものの、日常会話程度であれば大丈夫なこと。
ただ、次回公演までの稽古スケジュールを考えると、一穂の喉の完治を待つのは難しいこと。
そのときだけ、部長は言葉をところどころ区切り、一穂の無念を推し量るように彼女を励まし、ねぎらった。このひといいひとだ、マジで。
一穂を見ると、彼女は目を閉じたままそれを聞いていた。
そして、話はこれからのこと――代役選定の件に移った。
ただ――代役といっても、一筋縄では決められないだろう。
実際のところ、立候補で募ったところ、手を挙げる者は誰もいなかった。
それはそうだ。端役ならともかく、ヒロインだし。
しかも一穂の代役なんて。
一年生のときから数多くのヒロイン役を演じてきた彼女だ。はっきりした目鼻立ちと舞台慣れした度胸は、やっぱり存在感が違う。僕との間にあった黒歴史(と呼んでいるのは僕だけかもしれないが)を除いて、彼女はパーフェクトガールなのである。そんな彼女を差し置いて、いったいだれがヒロインをやれるというんだ。
と、そのとき。
床に座るメンバーたちの中に、体育座りをしているゆずきが見えた。
彼女は一穂のことを心配そうに見守っていた。ヒロインを降りることになったその心中を慮るように。
ゆずき――か。
次期部長という響きに酔っていた僕にかまわず、部長は淡々と議事を進行していた。しかも、その場の重苦しい雰囲気を察してか、あえてその口調はやわらかめで。
一穂の症状については、私見を挟まず正確に説明していた。
一時的なもので、安静にしていればいずれ直ること。
舞台で声を張るような発声はできないものの、日常会話程度であれば大丈夫なこと。
ただ、次回公演までの稽古スケジュールを考えると、一穂の喉の完治を待つのは難しいこと。
そのときだけ、部長は言葉をところどころ区切り、一穂の無念を推し量るように彼女を励まし、ねぎらった。このひといいひとだ、マジで。
一穂を見ると、彼女は目を閉じたままそれを聞いていた。
そして、話はこれからのこと――代役選定の件に移った。
ただ――代役といっても、一筋縄では決められないだろう。
実際のところ、立候補で募ったところ、手を挙げる者は誰もいなかった。
それはそうだ。端役ならともかく、ヒロインだし。
しかも一穂の代役なんて。
一年生のときから数多くのヒロイン役を演じてきた彼女だ。はっきりした目鼻立ちと舞台慣れした度胸は、やっぱり存在感が違う。僕との間にあった黒歴史(と呼んでいるのは僕だけかもしれないが)を除いて、彼女はパーフェクトガールなのである。そんな彼女を差し置いて、いったいだれがヒロインをやれるというんだ。
と、そのとき。
床に座るメンバーたちの中に、体育座りをしているゆずきが見えた。
彼女は一穂のことを心配そうに見守っていた。ヒロインを降りることになったその心中を慮るように。
ゆずき――か。