「次はから揚げもどうぞ」
 ちょうど気になっていたところだ。
 箸でとり、ひとかじり。
 醤油の香ばしさと、肉の旨みがすごい。
「うまっ!」
 圧倒的に語彙力が乏しく「うまっ!」しか口にしてないが、この感動は計り知れなかった。
「何個でもいけそう」
 褒め言葉で言ったつもりが、
「あ、三個しかなくてごめん。わたしのも食べる?」
と彼女が申し訳なさそうにするものだから、
「いやいや、そういう意味じゃないから! この味、すごく好きってこと!」
と慌てて補足する。
 ゆずきが頬を赤く染めた。
 少しうつむいた瞬間、耳にかかっていた長い髪が何本かはらりと垂れる。それを指ですくって耳にかけなおすしぐさが、自然な感じでどきりとした。
 その後も彼女のお弁当の一品ずつに舌鼓を打った。
 ひとつひとつのおかずに本心から感想を伝えて、それはどれも絶賛で、彼女はその都度照れたり喜んだりほっとしたりした。
 海浜公園でのデートでは、食欲旺盛なゆずきの食べる姿を見るのが楽しかった。今日はゆずきに見られながら食べるのが照れくさい。でもそれ以上に、その料理を彼女が僕のためだけに気持ちを込めて作ってくれたのだと思うと胸が熱くなった。
「ごちそうさまでした!」
 ちょうどふたりとも同じタイミングで食べ終わり、一緒に手を合わせた。
「ゆずのお弁当、最高だった」
 これは嘘偽りない本音だ。
「今度は何がいい?」
 うれしさに目を細める彼女が聞く。
「じゃあ、ハンバーグとか、どうかな」
「うん! がんばってみる」
 ――次があっていいんだ。
 僕は心でつぶやいた。