ゆずきの手作り弁当は、手作りとは思えないほど目を引いた。卵焼きにから揚げ、アスパラベーコン巻き、ポテト、それらにレタスやミニトマト、コーンなどが彩りを添えてかわいらしく盛られている。見栄えも抜群にいい。
「これ、ゆずが作ったの?」
「うん。から揚げも、自分で揚げたんだ」
「すごいね」
「ううん、うちではだいたいわたしが料理担当だから」
 両親を亡くしている彼女は祖父母と暮らしている。
「派手なものは作れないけどね」
 ゆずきは、えへへと笑った。
 なんて家庭的な子なんだろう。
 彼女も自分用に、ワンサイズ小さな弁当箱を開いた。中には同じメニューが詰まっていた。
「それより、ねえ、食べて食べて」
 彼女に差し出された箸を受け取る。
「どれにしようかな。全部おいしそうだから、迷うな」
「どうぞ、お好きなものを」
 彼女は料理店のシェフのような口調で言った。
「じゃあ、卵焼き」
「うん」
 手にした箸を弁当箱に伸ばす。
 が、……やばい、震える。緊張で。手が……手が……震える。
 止まれ、右手。
 舌を噛んだ。
 ぐをっ! 痛い。
 でも幸い、震えはなんとか治まった。無事にゆずきの卵焼きを口に運ぶ。
 ふわふわの食感と、ちょうどよい甘み。
「うまっ!」
 思わず叫んだ。
「ほんとに?」
 僕はブンブンと首を縦に振る。
「よかったー」
 ゆずきが胸を撫で下ろした。
 彼女の手作り弁当を食べさせてもらっている感激と、ファーストアクションをなんとか無難にこなせた安堵から、ちょっと涙ぐみそうになった。