そして体育のあとの四限、すさまじい眠気に襲われた授業をなんとかやり過ごすと、ようやく昼休みを告げるチャイムが校内に鳴り渡った。
 いつもなら人気商品が売り切れる前に速攻で購買に行くところだが、今日は違う。
 教室の面々はみんなそれぞれの昼休みを過ごし始めていた。
 机をくっつけて、グループで弁当を広げる女子たち。
 授業中に早弁したのか、早速グラウンドへサッカーをしにいく男子の一団。
 読書したり、耳にイヤホンをさしたりして一人で食べているヤツもいる。
 僕はみんなの動きを観察してからなるべく目立たないように廊下を小走りで移動し、ひとけが途絶えたところで階段を一段飛ばしにして一気に駆け上がった。
 空には綿菓子をちぎって散らしたような雲がうっすらと浮いている。
 屋上にはすでに二十人以上の生徒がいた。
 女子同士のグループもあれば、カップルもいた。それぞれ等間隔に距離をとって。
 ここはランチタイムを過ごす人気スポットなんだな。
 さわさわと風が吹き抜け、気持ちがいい。
 そんな屋上の片隅に、ゆずきを見つけた。
 フェンスに背を向けて段差に腰かけている。
「おまたせ」
 内心ドキドキの僕は、さわやかな笑顔を装って声を掛けた。
「うん」
 彼女はいつもの明るい様子とは少し雰囲気が違った。
 なんだろう。元気がないわけじゃなくて……あ、そうだ、なんとなくしおらしい感じがする。
「どうかした?」
 僕が横に座りながら聞くと、彼女は小さく首を横に振った。
「なんかね、ちょっと緊張してきたなーって」
「緊張?」
 ガチガチなのは僕だけかと思っていたけど、ゆずきも緊張なんてするんだ……。
「だってほら」
 ゆずきが膝の上の弁当箱のひもを握りしめる。
「男の子に手料理食べてもらうの、初めてだから」
「……」
 ――男の子に、手料理!
 ――初めてだから!
 なんという甘い響き。
 僕は思わずめまいを覚えた。