人間関係は、沢山の心を持っています。
 欲望を持ち、貪欲に、日々を足掻き生きています。
 どれだけ有名な人間にも、できた人格者にも当然欲はあります。例えば食欲だって、立派な『欲』でございます。
 だってそれが、人間なのですから。そして、その中には『悪』が宿る場合もございますから。
 それが、この世界でございます。
 さて、こんな世界の中には、当然『裏』が生まれます。人間はそれを見ないふりで、今日をまた忙しなく生きています。

 そんな裏の世界に、どうやら最近新しい顔が入ったようです。それは、一人の少年。
 まだ歳は若く裏には不釣り合いな、どこか可愛らしさが残る少年です。容姿は小奇麗で……白髪の髪と赤色の瞳が、裏の暗い社会では目立ち映えます。
 元々赤色の瞳がこの世界では珍しい、というのもあるかもしれません。けれども、一個人の感想を言わせてもらえるのでしたら、そんな彼の赤色が私は嫌いではありません。
 もちろん、何故彼のような少年が……と、裏では噂になりました。いえ、なりましたでは過去形になってしまいますね。

 ――噂になっておりますが、正しい言葉です。

 どこかの貴族でしょうか、はたまた罪を犯した咎人なのでしょうか?
 本当の事は、誰にもわかりません。彼は何があっても、自分の事を話した事がないのですから。
 わかる事は、不思議な色をした薬のネックレスをいつもしている事くらい。
 彼は今日も緩く、ただただ裏に生きているのです。そんな裏で彼は何をしていると言ったら、そうですね。

 強いて言うなら、『薬を売っている』事くらいでしょうか?

 ……えぇ、薬です。
 そんな、拍子抜けた顔をなさらなくても。
 事実なのですから。彼はいつも路地裏にひっそりと佇む、可愛らしいお店で薬を売っているのです。これがまた評判な事で。なんでもその薬は――

「ピクシー」
「あら、なんでございましょうか――キュウ」
「なに一人で喋ってるんだよ、邪魔だから用事がないなら帰れ」
「たまには私のお相手をしてくれてもいいではありませんか?」
「俺はそんなに暇じゃない」
 本当、釣れないお方でございます。
 彼、キュウは私の方を一瞥すると、そのままお店の奥へと行ってしまいました。
 またお薬でも作りに行ったのでしょうかね、大変仕事熱心な方でございます。
 ――あぁ、それで薬のお話でしたね。
 それは……いえ、やはりここで言うのはやめましょう。これ以上言ってしまっては、先が面白くありませんね。
 なにより、私が彼に怒られてしまうかもしれません。彼はあぁ見えて、怒ると怖いですから。
 それだけは勘弁でございます。
 ……それでは、前置きはこれくらいに致しまして。

 これは、一人の少年が紡ぎ出す――不思議な薬と人間のお話。

 それでは『奇し屋』のお話を、今日も始めようではございませんか。