正の終了フラグとは結果が適切であることを意味する言葉らしい

そんなことを考えているうちに、いつの間にか時間だけが過ぎていた。

俺は暗くなり始めた窓の外を振り返る。

山崎のやつ、本当に戻ってこないな。

まぁでも、学校完全下校の時間も近づいている。

電気を消して戸締まりしておけば、あいつが後から戻って来たところで、先に帰ったと分かるだろ。

結局今日は、資材をいくつか買っただけで、何にもしなかったな。

さすがに、これではマズい。

明日からは、ちゃんと真面目にやろう。

そう思いながらため息をつき、立ち上がろうとテーブルの上に手を置いた。

ところで、この資材はどこに隠しておこうか。

あんまり他の奴らに、見られたくはない。

「失礼します」

その静かな空気を破ったのは、鹿島だった。

地毛のくせに真っ直ぐで淡い色の前髪を、さらりと揺らす。

「吉永先輩、やっぱりニューロボコンに出られるんですね。エントリーしたって、聞きました」

ここまで走って来たのか、鹿島の息があがっている。

机の上には、買って来たばかりのシリンダーと、大会の公式エントリー用紙が、のんきな姿をさらしていた。

俺は慌てて、その出来損ないの企画書を丸める。

「誰にそんな話しを聞いたんだよ」

「部長も、やっぱり興味があったんですね」

山崎のヤローだな。

内心でそう思いながらも、それを口にしない鹿島に、また腹を立てている。

「お前とは関係ない」

やばい。

部のパソコン画面には、鹿島の提出したマシンアイデアのファイルが開きっぱなしだ。

それに気づいた俺の視線を、鹿島の視線が追う。

シャットダウンついでに、何気なく画面を閉じた。

コイツも案外、なんだかんだで自分の設計をパクられるのを、心配しているのかもしれない。

「そうならそうと、ちゃんと言ってくれればよかったのに」

どうしよう、鹿島のマシン設計をパクる、いや、参考にする気満々だったのに、こうなったらやっぱりマズイよな。

絶対バレるよな。

だけど、それをベースにして、もっといい物を作ればいいわけだし、負けずにこっちもちゃんとしたものを作って、それで校内で戦わせて、さらなる技術アップを目指せば、それを切磋琢磨っていうんじゃね? 

それは、悪いことではなくね?

「お前はお前の作りたいものを、作ればいいだろ」

まあでもな、実際のとろろ、アイデアや技術が盗まれるとか、そんな心配は不要だぞ。

あー、ぶっちゃけ、ね、お前に勝てるなんて、思ってないから。

そんな実力、俺にないから。

そんなににらまれても、ちょっとやってみたくなっちゃっただけだから。

そう怒るなって。

最後にはちゃんと、お前に譲るから。

「部長には、部長の持ってるアイデアがあったってことですか?」

「……。ま、そういうこと」

そりゃね、俺が本気出せば、負ける気はしないけど。

まぁでも、そんなことはどうだっていいだろ。

腹も減ったし、さっさと帰ろうぜ。

「一緒に作りませんか」

俺は驚いて、鹿島を振り返った。

「は? 何言ってんの、バカじゃね、お前」

「だって、予算も限られてるし、一緒にアイデアを出し合って作った方が、より上位を目指せる、いいマシンが作れると思うんです!」

正気か、コイツ。

俺はめまいがして、今すぐここで、ぶっ倒れそうだ。

コイツは本気で、俺たちと一緒にやるつもりなんだろうか。