ようやく見られる作業台になった。

普通なら5分で終わる簡単な工程を、ぶつぶつ言いながら、かれこれ30分以上かけても、終わらせられないでいる。

「鹿島! そこ面倒みてやれよ」

俺はただここにいるだけで、とてつもなくイライラしているのだ。

だけど部長として、コイツらを放っておくわけにもいかない。

なので仕方なく、ここにいてやっている。

「はい。すみません」

ようやく鹿島は手を止め、ハンダ付けの仕方を教え始めた。

「最初にコテの先は、拭いてきれいにした方がいい。それから、ちゃんと温まるまで、待つんだ。急がないで、焦らずゆっくり……」

俺はようやく安心して、パソコン画面のオンラインゲームに視線を戻す。

山崎がいるから、モバイルワイファイが機能している。

画面の中では、大乱闘が勃発中だ。

「見てるだけなら、教えてくれたっていいのに」

ゲームをしているフリの俺の耳に、ぼそりと不快な音源が聞こえた。

イラっとはしたが、ここは深呼吸で抑える。

俺は部長だし、先輩だ。

「練習用のハンダをもっと用意しよう。たくさん練習できた方がいいし、皆もやってみたいだろ?」

鹿島の提案に、1年の一部がうなずき、一部は黙っていた。

「もっとみんなで、協力出来たらいいのに」

「準備の仕方って言われても、初めてのことばっかりだから、よく分かんない」

「俺、マジでこういうの、やったことないんだよね」

鹿島に対して、批難の声が飛ぶ。

鹿島は俺に背中を向けたまま、じっと立っていた。

だから、所詮お前たちには、無理なんだって。

「だったら、やめろ!」

黙ったままうつむいている鹿島の背中越しに、俺は助け船を出し、肩を持ってやったつもりだった。

「ガタガタガタガタ、文句ばっかり言いやがって。自分で出来ないんだったら、文句言うなよ」

1年連中の視線が、俺に集まった。

それ以上のことを言うのは、俺の役目じゃない、鹿島の役目だ。

彼はまだ俺に背を向けたまま立っていて、どんな表情をしているのか、俺には分からない。

「吉永、お前さぁ」

ふいに、山崎がそう言った。

激しく頭を掻きむしりながら、言葉にならない言葉を探している。

「なんだよ!」

「いえ、いいんです。俺が悪かったんで」

鹿島は振り返った。

「すいませんでした。ニューロボコンの申込書を間に合わせたくて、他のことにまで気が回っていませんでした。ちゃんと手順や準備を再確認して、周知徹底させます」

なんだよ。

これでもまだ、あきらめないって言うのか。

ずらりと起立したメンバーのなかで、俺だけが椅子に座っていた。

「そういうの、お前一人でやって、どうすんの?」

自分が本当に言いたいことを、直接言わないように表現することが難しい。

気づいてほしい。

自分たち自身で気づかないことには、俺が何を言ったところで、分かりはしない。

「この先そんなんじゃ、絶対やってけないよ?」

やめさせたい。

こんな熱血部活みたいなマネ。冗談じゃない。

こんなごちゃごちゃした場所も、うるさいだけで落ち着かない理科室も、なにもかも全部、俺の知る電子制御部じゃない。

「お前らもう、ここを出ていけよ」

言ってはいけないと分かっていた本音が、つい漏れる。

しまった、とは思ったが、これで1年たちが本当に分かってくれるのなら、もっと言った方がいいのかもしれない。