くだらない日々だった。
 くだらない学校、
 くだらないクラス、
 くだらない通学路、
 くだらないやりとり、
 そしてくだらない毎日……何もかもがくだらない。
 六月に味わった初めての失恋の傷口は予想以上に深く、完治するまで何週間もかかった。間に夏休みが挟まったのはある意味幸運だったのかもしれない。
 学校が休みという事で、白河と会わなくて済んだというのが完治を早めてくれた。しかし、補習の為にたまに学校に顔を出す時、無意識のうちに彼女を捜している自分が嫌になった。会ってどうにもなるものでもないのに。何も期待できない状態なのに。
 ただ俺が一方的に好きになり、一方的に勘違いをし、振られただけ。それがこの前の恋の全容だった。無益な恋に、無益な夏休み。皆が夏だ海だ花火だ祭りだと騒いでる最中、俺はただそれらを横目に眺めているだけで、何一つ楽しめなかった。いや、楽しもうともしなかった。ただ忘れるだけで精一杯だったのだ。やり残していたゲームを全てクリアし、読みたかった本を読破し、ひたすら現実から離れようと夢中になった。本当に、無益だった。
 予備校の夏期講習に顔を出して、熱心に勉強できた。ただそれだけが有益だったものだろう。しかし、会わなくていい、という事はそれだけで効果があった。会わなければ思い返す回数も少なくなるからだ。そうして俺は無益な夏休みの中で、徐々に勘違いだらけだった恋愛感情を薄れさせていった。

 九月を迎えた頃には、その感情は消えていた。それと同時に活力も何もかも奪われて、ただくだらない日々を惰性に生きる。何かを楽しむわけでもなく、求めるでもなく、何かを目指すわけでもなく……ただ惰性に生きていた。
 俺は皆に好かれないタイプの人種だ。一度嫌われてしまえば、嫌われ者はもう戻れない。ずっと嫌われたままだ。
 神は不平等だ。幸せな人生を歩める人間と、歩めない人間とに先天性のレベルで区別をつける。陰キャと陽キャを先天的に決めてしまうのだ。一旦陽キャのカテゴリーから外れてしまえば、もう陰キャから陽キャに戻れることはない。だから、皆いじめに加担してでも、陽キャのカテゴリーに居残ろうとする。
 そして、俺は陰キャで、陽キャにはなれない人種だった。彼女ができれば変わるかもしれない──そんな願望もきっとあったが、その希望はあえなく打ち崩された。
『お前は一生陰キャとしておとなしく生きろ』
 彼女──白河莉緒──は、俺にこう言ったのだ。悪気はなかったのかもしれないが、間違いない話だった。そんな俺にどうやって日々を楽しめと言うのか。そんな俺にどんな希望を持てと言うのか。この何の楽しみもないくだらない日々を卒業まで歩き続けなければならないのか。それとも、こんな日々もある日いきなり変わったりするのだろうか。変わるとしたら……どうすればいいのだろうか。こんな疑問に答えてくれる奴はいない。誰も解らないのだから。
 奇跡を信じるしかないのか。ただ奇跡が起こる事を祈るしかないのか。それもまた無益な様に思えた。
 ──奇跡なんてものは存在しない。あるのは、必然と偶然と、誰が何をするかだ。俺はその事を知っていた。
 ならば、いったい何をすればいいのだろうか。何をすれば、世界を変えられるのだろうか。
 ひとつわかったことは、それはどうやら俺だけでは難しいという事だ。これを変えてくれる、誰かが必要だった。
 変わりたい……そう願った時、君は俺の前へと舞い降りた。