「うふふ。これで少しは反省しましたか、ご主人様? ――もがっ!」

「ええ、反省しました。お詫びに、先輩も一口どうぞ。先輩の愛情が籠っていて、とてもおいしいですよ」

「――ッッッッ~!!」

 ハハハ。本当にこの人は、おもしろいことをしてくれるな。というわけで、愉快のおすそわけだ。僕は上品に微笑んだ奈津美先輩の口に、特製オムライスを載せたスプーンを突っ込んで差し上げた。
 口元を押さえた奈津美先輩は見る間に目に涙を浮かべ、ついに堪えきれなくなって悲鳴を上げた。

「かっら~い!!」

 奈津美先輩はちょうど通りかかった別のメイドさんの盆に載っていた水を奪って一気飲みし、それでも辛さが治まらないのか、涙を流しながら机をバンバンと叩く。
 ハッハッハ! 愉快、愉快。これで僕の溜飲も少しは下がるというものだ。

「どうですか、先輩? 御自分の愛情を御自分で味わった気分は」

「悠里君、さいて~。女の子は、もっと大切にするものよ」

「それを言うなら、先輩だって後輩をもっと大事にしてください。というか、僕だって曲がりなりにも客なのに、なんてもの食わせるんですか!」

 ここが奈津美先輩のクラスだということも忘れて、僕たちは本気の言い合いを始める。

「元はと言えば、悠里君が私の命令を聞かずにここに来たのが悪いんじゃない!」

「先輩がメイド服着ているって聞いたら、来るに決まっているじゃないですか! これでも僕、先輩のことが好きなんですから!」

 叫んだ瞬間、奈津美先輩が辛さとは別の意味で顔を真っ赤に染めた。そして、周囲のメイドさんとお客さんが、「お~!」と称えるような声を上げながら拍手を始めた。周囲の反応に、僕も自分がとんでもないことを大声で口走ってしまったと悟る。

 すると、真っ赤な顔でプルプル震えていた奈津美先輩が、ビシッと人差し指を僕に突きつけた。

「この期に及んで、さらに精神攻撃を加えてくるなんて……。これは私への宣戦布告と受け取ったわ。明日の勝負で目にもの見せてあげるから、覚悟しておきなさい!」

「上等です! 唐辛子オムライスの借り、明日まとめて返させてもらいます!」

 こうなったら、もう自棄だ。奈津美先輩の宣戦布告に、僕も正面から受けて立つ。
 この瞬間、僕は後のことなんて考えるのをやめ、とりあえず勝負に勝って奈津美先輩を悔しがらせてやろうと心に決めたのだった。