「むしろ、悠里君がメイド服を着て、先輩兼部長である私に給仕しなさい。大丈夫。悠里君なら、絶対にメイド服が似合うから!」

「わけわからないことを言わないでください。何で僕が先輩のクラスで給仕をやらなきゃいけないんですか。第一、僕は死んでもメイド服なんて着ません」

「む~。じゃあ、悠里君は私が当番の間、文集の警備をしていなさい。いい? これは部長命令よ」

「文集の警備は僕が行くまでもなく間に合っています。安心してください」

「む~! む~!」

 いちいち反論をぶつけていたら、奈津美先輩が駄々をこねる子供のように握った拳を上下に振った。その姿を見て、僕はより一層和んでしまう。
 コロコロ変わる奈津美先輩の表情を見ていたら、なぜか色んな悩みを忘れられた。前にも思ったが、やはり僕はSなんだろうか。

 ちなみに、僕ら書籍部の出し物である手製本文集『アルカンシエル』は、図書室に展示してある。図書委員会との合同展示という扱いだ。図書室には常に文化祭担当の図書委員が詰めているので、こちらもあとはお任せ状態だ。

 よって、僕は本当にやることがない。精々、明日の勝負に向けて、英気を養っておくくらいだ。
 奈津美先輩を適当にからかっているうちに時間は過ぎていき、あっという間に十二時を回った。少し早目に昼食を取った奈津美先輩は、カバンを手に資料室から出て行く……と思ったら、書架の間から眉根を寄せた顔を覗かせた。

「いい、悠里君。絶対に来ちゃダメだからね!」

「はいはい。他ならぬ先輩の命令ですからね。……善処します」

 命令を守る、とは言っていない。

「ホントにホントだからね。じゃあ、行ってきます!」

「お気を付けて~」

 ドタバタと出て行く奈津美先輩を、のんびりと見送る。
 さて、僕も出かける準備をするか。どうせここにいたって、あれこれ答えの出ない考え事をしてしまうだけだ。だったら、文化祭を楽しんでいた方が建設的だし、精神衛生上も好ましい。
 僕は財布と資料室の鍵を手に、賑やかな文化祭へと繰り出していった。