「悠里君、ずっとここにいて、クラスの方は大丈夫なの?」

「うちのクラスはポスター展示だけですから、文化祭中は自由にしていて問題ありません。みんな文化祭期間中は思いっきり遊びたいってことで、この出し物になりました」

「なるほど。賢い選択ね」

「ありがとうございます。先輩こそ、ずっとここにいて大丈夫なんですか? 確か、クラスでメイド喫茶店をやっているんですよね」

 ソファーに座って本を読んでいる奈津美先輩に、問い掛け返す。この人も、僕と同じく今朝からずっと部室にいる。クラスの手伝いに行く気配はない。

「私の当番は、今日の午後からなの。だから、まだここにいても大丈夫よ」

 奈津美先輩が掛け時計の方を見ながら微笑んだ。時計が差す時刻は午前十時だ。確かに、余裕である。

「あ、そうそう。私が当番をしている間に、うちのクラスに来ちゃダメよ」

「どうしてですか?」

「だって恥ずかしいじゃない。――いい? これは部長命令よ。絶対に来ちゃダメだからね」

「わかりました。万難を排して先輩のメイド姿を見に行きます。ああ、楽しみだな~」

 駄目だと言われると、ついついやりたくなってしまう。僕は、「来るな」と念を押す奈津美先輩に、満面の笑顔で返事をした。

 あれこれ悩みつつもこれだけ軽口を叩けるのだから、僕も奈津美先輩ほどではないが、相当図太いか鈍感なのかもしれない。もしくは、単に一年半も奈津美先輩と漫才のようなやり取りを続けてきた成果か。条件反射的に軽口が出てきたところを見るに、後者の可能性の方が高いと思われる。僕も随分と鍛えられたものだ。

 一方、奈津美先輩は「悠里君は本当に意地が悪いわね」と言って頬を膨らませた。見ていて思わず和んでしまう。
 すると、穏やかに笑う僕が気に入らなかったのだろう。奈津美先輩が眉を逆立てて、僕を指さした。