「それでは気を改めまして……。悠里君、私、ついにやったの!」

 バンッとテーブルを叩き、奈津美先輩が興奮した様子で身を乗り出してきた。間近に迫った黒い瞳の中には、星がキラキラと輝いている。開口一番、暴走超特急モードに突入したらしい。さっきスカートの裾を整えたのは何だったんだ、と思いつつ、僕は奈津美先輩にぶつからないよう体をのけぞらせた。

「それはもう聞きましたから。さっさとその続きを……」

「苦節二か月半、新年度になってから重ねてきた努力が、ついに実を結んだのよ。あ~、私って本当に偉い! 悠里君も、そう思うでしょ!」

 人の話を聞きゃしないよ、この人。
 握り締めた拳を震わせてしみじみ語ったかと思えば、うっとりとした表情で突然の自画自賛。しかも、結局何をやったのか一向に言いやしない。
 これで同意を求められても、こっちはどう反応すればいいんだ。

「あ、もしかして朝の英単語小テストで平均点でも取れましたか? 確かにそれは、素晴らしいことですね。おめでとうございます。この調子で、引き続き頑張ってください」

「いいえ、それは今回も五点で……って、違う! そうじゃなくて!」

 とりあえず適当なことを言ってみたら、ノリツッコミで返ってきた。
 そうか、今回も五点だったのか……。

 朝の英単語小テストとは、毎週月曜日の朝に全校一斉に行うテストだ。テストは二十点満点で、受験生でもある三年生の平均点は十四~十五点ほどと聞いたことがある。つまり、先輩の得点は平均点のおよそ三分の一だ。

 ちなみにこのテスト、平均点の半分以下を五回連続で取ると、もれなく補習がプレゼントされる。奈津美先輩はこれで四週連続平均点の半分以下だったはずだから、リーチが掛かったわけだ。

「悠里君、何で合掌なんかしているの?」

「いえ、『ご愁傷様です』という気持ちを表してみようかと思いまして」

「ま、まだ終わってないもん! 来週八点以上取れれば、まだ何とかなるもん!」

 奈津美先輩が手を振り回して喚く。人間は諦めが肝心ですよ、と教えてあげるべきか真剣に悩んだ。