「先輩が珍しい格好をしているなって思って、呆気に取られていました」

「もしかして、この格好変だった?」

「そんなことないですよ。よく似合っています。馬子にも衣裳って感じで」

「それ、褒め言葉に聞こえないんだけど」

 腰に手を当てた奈津美先輩が、ジト目で僕を睨んできた。
 けど、すぐにおかしそうに吹き出し、また何事もなかったように歩き始める。今度は置いていかれないように、僕も歩調を合わせて進んだ。
 すると、奈津美先輩がいたずらっぽい笑顔で、僕の顔を上目遣いに覗き込んできた。

「何だかこうしていると、デートみたいね」

「はい!?」

 奈津美先輩の言葉を聞いた瞬間、僕の心臓が大きく跳ねた。
 いきなり何を言い出すんだ、この人は。
 僕が目を白黒させていると、奈津美先輩はまたおかしそうに笑った。

「アハハ、赤くなった。悠里君、かわいい!」

「からかわないでください。あんなことをいきなり言われたら、誰だって焦ります。何考えてんですか!」

「ふふーん。さっき馬子にも衣裳なんて言った罰よ。反省しなさい」

 まるで弟を注意するように、奈津美先輩は僕を優しくたしなめた。普段、なかなか見られないシチュエーションだ。いつもは僕が暴走する奈津美先輩をたしなめる役だし。
 学校も部活も関係なく、ただ休日をふたりで過ごす。そんな慣れないことをしている所為か、今日は何だかいつものテンポがつかめていない気がする。

「さてと! 悠里君に仕返しもできたことだし、張り切っていきましょう!」

 威勢の良い掛け声とともに、奈津美先輩が意気揚々と駅ビルを指差した。
 僕はやれやれと頭を掻き、早くも疲れ切った顔で奈津美先輩の後に続くのだった。