次の日、僕は約束の時間の三十分も前に駅前に着いてしまった。
 昨日の夜から、どうにも気分が落ち着かない。こんなに早く来てしまったのだって、家で大人しくしていられなかったからだ。

 おかげで、今日は若干寝不足だ。もっとも、頭だけは妙に冴えている。
 何だかこれでは、遠足が楽しみ過ぎて興奮している小学生みたいだ。自分が子供っぽく思えて、少し恥ずかしい。

「あら? 悠里君、随分と早いわね」

 その時、後ろから聞き覚えのあるのほほんとした声が聞こえてきた。
 振り返れば思った通り、奈津美先輩が立っていた。どうやら今日は遅刻しなかったらしい。失敗フラグを見事に切り抜けるなんて、奈津美先輩も成長したものだ。

「今日こそは先に来て、先輩らしく待ち構えていようと思ったのに……。悠里君、来るの早過ぎよ。いつからいたの?」

「僕も今来たところですよ」

 嘘です。かれこれ十分ほど、ここで立ち尽くしていました。
 でも正直に言うのはなんか悔しいので、今さっき来たという体を装うことにした。

「そう。まあいいわ。とにかく、行きましょう」

 奈津美先輩が軽快な足取りで僕に背を向けた。回転する動きに合わせて、髪とスカートがふわりと風をはらんで膨らむ。
 今日の奈津美先輩は、涼しげなパステルブルーのワンピースの上に、白い薄手のカーディガンを羽織っている。まるで避暑地にやってきたお嬢様のような出で立ちだ。

 取材の時は動きやすさ重視の格好だったけど、今日は行き先が展示即売会ということでおしゃれをしてきたのだろう。奈津美先輩は容姿だけなら深窓の御令嬢っぽいから、その格好はよく似合っている。

「悠里君、どうかしたの?」

 立ち止まったままの僕を不思議に思ったのか、奈津美先輩が三歩進んだところで振り返った。
 いけない。物珍しさのあまり観察に徹してしまった。
 僕は「すみません」と謝りながら、奈津美先輩の隣に並んだ。