書籍部の文集作りは、おおむね予定通りに進んだ。

 お盆明けには僕も奈津美先輩も担当部分の原稿を書き上げ、今は製本の作業に入っている。ただでさえ狭い書籍部の部室は、奈津美先輩が家から持ってきた製本用の器具類や材料でいっぱいだ。さすがにこの中で作業することはできないので、今はひとつ上の階にある技術室が主な活動場所となっている。

 もちろん、奈津美先輩の宿題についても滞りはない。模造紙にでかでかと書いた進捗表を部室に貼り付け、毎日進行状況を記入させている。本人は「恥ずかしい~」と毎日涙目だが、ここで甘やかしたりはしない。そんなことをすれば、割を食うのは僕だから。

 そう。すべては順調、視界良好で問題なし……なんだけど……。

「悠里君、そこの三角定規取って」

 言われた通り三角定規を手に取り、奈津美先輩に差し出す。
 奈津美先輩が三角定規に手を触れた瞬間、その指が僕の指に当たった。

 ――ビクッ!

 瞬間、僕は飛び退くようにサッと手を引っ込めた。

 あの日以来、ずっとこんな感じだ。奈津美先輩を見ていると顔が赤くなる。少しでも触れようものなら、体が硬直する。完全に挙動不審だ。

「悠里君、どうかしたの?」

「いえ、別に……。ほら、作業を続けましょう?」

「ん~?」

 おかげで、今みたいに奈津美先輩から訝しげな目で見られることも、しばしばだ。とりあえず、視線がかち合わないように逸らしておく。

 今までこんなことなかったのに、僕は一体どうしてしまったのだろう。ああ、恥ずかし過ぎて、穴を掘って埋まりたい。

 ただ、おかしいのは僕だけではない。奈津美先輩も、ここのところおかしいのだ。
 あ、いや、奈津美先輩がおかしいのは、いつものことだけれども。むしろ、おかしくない時を探す方が大変だけれども。

 それはさておき、ちょうど僕と時を同じくして、奈津美先輩の挙動もどこか変になった。
 時折、遠くを見たり、何か考え込んでいたり、僕の方を見てソワソワしたり……。こちらも明らかに挙動不審だ。文集作りと宿題はちゃんとこなしているので、特に問題はないけど。

 というわけで、現在の僕らは、傍から見るとかなり怪しいふたり組となっていた。

「ところで悠里君」

「え? あ、はい!」