「僕からもお願いします。このイタズラの犯人を許してあげてください」

「栃折さん……。一ノ瀬君まで……」

 頭の上から、陽菜乃さんの困ったような声が聞こえる。
 まあ、普通そうなるよな。イタズラした犯人を許してくれなんて頼まれたら……。
 けど、陽菜乃さんはやっぱり大人だ。すぐに頭を整理したようで、僕らに落ち着いた声音で「顔を上げて」と言った。

「もしこのイタズラの犯人を見つけたとしたら、さすがに見過ごすことはできないわ。正しい図書館のマナーを教えてあげることも、私たち司書の仕事のひとつだから」

 僕と奈津美先輩がお辞儀をやめると、陽菜乃さんは冷静な口調で僕らの求めを却下した。

 ……うん、わかっていた。どう考えても、陽菜乃さんの言っていることの方が正しい。
 このイタズラをやった子供たちの今後のためにも、その方がいいに決まっている。ただ許すのではなく、きちんとダメなことをダメと教えることこそ、本道だ。

 けど、もしも奈津美先輩の想像が正しかったとしたら……願わくば、別れの思い出が叱られた記憶とはならないでほしい。それは、あまりにも悲しいから。
 その時、陽菜乃さんは「けどね」と言葉を継いだ。

「けど……もしも栃折さんの想像が正しいのだとしたら、私も最大限の配慮をするわ。だって、この図書館での最後の思い出が悲しいものになってしまうのは、私も嫌だもの」

 先程の奈津美先輩にも負けない優しい声音で、陽菜乃さんが言う。
 僕と奈津美先輩は、喜びのままに顔を見合わせてハイタッチした。