「もしかして……!」

 棚から抜いたばかりの本を、もう一度よく見てみる。注意すべきは、背表紙に記されたタイトルだ。そこに子供の視点で暗号なりを仕込むとするなら、ここしかない。

「あった!」

 八冊並べた本のタイトルの頭文字を一冊目からつなげて読む。

「『ご』『め』『ね』『ま』『た』『あ』『お』『う』……」

「『面積と体積』は、多分『めん』じゃないかしら。『ん』で始まる本ってほとんどないから」

 奈津美先輩に言われて、『め』を『めん』に置き換える。

 ごめんね、また会おう。

 イタズラと思われた本から、隠されていた別れのメッセージが現れた。
 本のジャンルに統一性がないのは当然だ。この本をここに置いた子にとって大切だったのは、最初の一文字だったのだから。

 こんな簡単な暗号にも気が付けなかったなんて、僕はなんて狭い視野で物事を見ていたんだろう。司書を目指すと言っておきながら、肝心の利用者のことがまったく見えていなかった。情けないにも程がある。

 僕同様に暗号に気付かなかった陽菜乃さんも、口をポカンと開けている。おそらく、胸の内では僕と似たようなことを考えているだろう。

 だけど、奈津美先輩が導き出したイタズラの裏に隠された物語は、これだけで終わらない。鈴の音のように心地よい声が、僕と陽菜乃さんの耳を優しく打つ。