「これが、その勝手に並べられている本ですか。やっぱり、パッと見ただけだと読んでいた本を全部押しこんだようにしか見えませんね」
「そうね。だけど、ひとりで読んでいたにしては、統一性に欠けるわね」
陽菜乃さんに言われ、改めて本の背を見てみる。
並んでいる本は、全部で八冊。左から、
『ごんぎつね(請求記号913)』
『面積と体積(請求記号411)』
『ねずみ小僧の谷(請求記号913)』
『まどのそとのそのまたむこう(請求記号E)』
『タガメのいるたんぼ(請求記号486)』
『会津藩、戊辰戦争に散る(請求記号210)』
『おりがみであそぼう(請求記号754)』
『うみのいきもの(請求記号480)』
となっている。
なるほど。並んでいるのは全部児童書コーナーの本みたいだけど、背ラベルの請求記号は見事にバラバラだ。請求記号の番号は本のジャンルを示しているから、陽菜乃さんが言う通り、ひとりが読んだにしては統一感がなさ過ぎる。ちなみに、Eは絵本のことだ。
そう考えると、ここに入れるために適当に別の書架から本を持ってきたようにしか見えないか。わざわざ色んなところから本を見繕ってくる辺り、ちょっと悪質だ。
「とりあえず、片付けてしまいましょうか。もしこの本を探している人がいたら、迷惑になっちゃうし」
「そうですね。僕も片付け、手伝います」
陽菜乃さんと一緒に、本を棚から取り出す。
どういうつもりでこんなことをしているのかわからないけど、傍迷惑な話だ。このイタズラのせいで本が見つけられなくて、クレームになることだってありえるのに……。
何だか、イタズラの犯人が無性に許せなくなってきた。こうなったら、張り込みでもしてしょっぴいてやろうか。
と、僕が内心で息巻いていた時だ。
「あの……陽菜乃さん!」
義憤にかられる僕の耳に、澄んだ声が響いた。
誰の声かなんて、考えるまでもない。その人物の方へ振り返ると、僕と同時に動くひとつの影があった。
「陽菜乃さん、このイタズラ、あと一回だけ許してあげてくれませんか?」
お願いします、と奈津美先輩が頭を下げる。
僕と陽菜乃さんは、わけがわからず目を丸くするばかりだ。
いきなりどうしたんだ? 何で奈津美先輩が、犯人の肩を持つようなことを言い出すんだ?
「先輩、どうしたんですか? イタズラを許せなんて、そんなこと認められるわけないじゃないですか!」
「図書館にとって、これが悪いことだっていうのはわかっているわ。これが利用者さんにとっての迷惑になるってことも……。けど、悠里君だって見たでしょ。私、どうしてもこの子に返事が届いてほしいの!」
だって、私もこの子の気持ちがわかる気がするから……。そう呟いた奈津美先輩の表情は、今にも泣き出しそうなくらいに切実だ。
どうしていいかわからず、僕は棚から取り出したばかりの本に目をやる。
奈津美先輩は、この並べられた本に何を見たんだ? 返事って、一体何のことだ?
「そうね。だけど、ひとりで読んでいたにしては、統一性に欠けるわね」
陽菜乃さんに言われ、改めて本の背を見てみる。
並んでいる本は、全部で八冊。左から、
『ごんぎつね(請求記号913)』
『面積と体積(請求記号411)』
『ねずみ小僧の谷(請求記号913)』
『まどのそとのそのまたむこう(請求記号E)』
『タガメのいるたんぼ(請求記号486)』
『会津藩、戊辰戦争に散る(請求記号210)』
『おりがみであそぼう(請求記号754)』
『うみのいきもの(請求記号480)』
となっている。
なるほど。並んでいるのは全部児童書コーナーの本みたいだけど、背ラベルの請求記号は見事にバラバラだ。請求記号の番号は本のジャンルを示しているから、陽菜乃さんが言う通り、ひとりが読んだにしては統一感がなさ過ぎる。ちなみに、Eは絵本のことだ。
そう考えると、ここに入れるために適当に別の書架から本を持ってきたようにしか見えないか。わざわざ色んなところから本を見繕ってくる辺り、ちょっと悪質だ。
「とりあえず、片付けてしまいましょうか。もしこの本を探している人がいたら、迷惑になっちゃうし」
「そうですね。僕も片付け、手伝います」
陽菜乃さんと一緒に、本を棚から取り出す。
どういうつもりでこんなことをしているのかわからないけど、傍迷惑な話だ。このイタズラのせいで本が見つけられなくて、クレームになることだってありえるのに……。
何だか、イタズラの犯人が無性に許せなくなってきた。こうなったら、張り込みでもしてしょっぴいてやろうか。
と、僕が内心で息巻いていた時だ。
「あの……陽菜乃さん!」
義憤にかられる僕の耳に、澄んだ声が響いた。
誰の声かなんて、考えるまでもない。その人物の方へ振り返ると、僕と同時に動くひとつの影があった。
「陽菜乃さん、このイタズラ、あと一回だけ許してあげてくれませんか?」
お願いします、と奈津美先輩が頭を下げる。
僕と陽菜乃さんは、わけがわからず目を丸くするばかりだ。
いきなりどうしたんだ? 何で奈津美先輩が、犯人の肩を持つようなことを言い出すんだ?
「先輩、どうしたんですか? イタズラを許せなんて、そんなこと認められるわけないじゃないですか!」
「図書館にとって、これが悪いことだっていうのはわかっているわ。これが利用者さんにとっての迷惑になるってことも……。けど、悠里君だって見たでしょ。私、どうしてもこの子に返事が届いてほしいの!」
だって、私もこの子の気持ちがわかる気がするから……。そう呟いた奈津美先輩の表情は、今にも泣き出しそうなくらいに切実だ。
どうしていいかわからず、僕は棚から取り出したばかりの本に目をやる。
奈津美先輩は、この並べられた本に何を見たんだ? 返事って、一体何のことだ?