「ほんとうに? ほんとうにお姉ちゃんを、しからない?」

「しからない?」

 双子君たちが、澄んだ目で僕を見上げる。子供だけど、目が本気だ。奈津美先輩、どれだけこの子たちに好かれているんだ。

「うん、本当だよ。この話は、これでおしまい。君たちも、その本を借りておいで」

 僕が微笑みかけると、ふたりも納得してくれたようだ。「うん!」と元気に返事をして、カウンターの方へ走り去っていった。
 できれば、館内では走らないでほしいな……。

 双子君たちを見送り、僕はいまだに膝を抱えている奈津美先輩に目を向けた。

「先輩、その……大丈夫ですか?」

「うふふ、全然大丈夫よ……。これくらい、毎日のように悠里君から言われているもの。慣れているわ。うふふ……」

 全然大丈夫じゃなかった。

 あと、腹いせで僕のことをディスらないでください。あなたが妙な行動を起こした時の切り札程度にしか使っていませんよ、このネタ。

「あとの書架整理は僕ひとりでやりますから、先輩はそこで休んでいてください」

「それはダメよ。部員だけ働かせてひとり休んでいるなんて、部長の名折れだわ。私もやります!」

 奈津美先輩がガバッと立ち上がり、グッと両の拳を握り締める。心のダメージはまだ大きいだろうけど、部長としての意地で持ち直したみたいだ。

 僕は、思わずフッと吹き出してしまった。
 本当にこの人は、変なところでまじめだな。まあ、それがこの人の良いところなんだけど。

「何よ、いきなり笑い出して。私、何か変なこと言った?」

「いいえ。先輩らしいな、と思っただけですよ」

「それ、褒めているの?」

「褒めていますよ、一応」

「その言い方、全然褒めているように思えないんだけど~」

「じゃあ、半分呆れています」

 笑いを噛み殺しながら言うと、奈津美先輩が「む~」と頬を膨らませてしまった。
 さて、この人をからかうのはこれくらいにして、そろそろ作業に戻るとしようか。
 結局、僕らはふたりで連れ立って、整理途中の棚に戻っていった。