「お姉ちゃんをいじめるな!」

「そうだよ、ぼくたちが『いっしょに読もう』ってさそったんだ。お姉ちゃんは、わるくないよ!」

 本を読んでいた男の子ふたりが、奈津美先輩をかばうように立ち塞がる。
 よく見たら、この子たちの顔、そっくりだ。一卵性双生児というやつかもしれない。

 ともあれ、これには僕も面食らった。奈津美先輩、子供たちからモテモテだな。
 うーん、なぜだろう。男の子たちから庇われる奈津美先輩を見ていると、若干、お腹の底がムカムカする。何だかおもしろくない。

「あなたたち……」

 一方、奈津美先輩の目には感動の涙が浮かんだ。

 いや、あなた、それでいいんですか? 年端もいかない子供たちに庇われているんですよ。今のあなた、部長しての威厳もへったくれもあったもんじゃないですよ!

 双子君たちも双子君たちで、奈津美先輩が喜んでいると見て、より一層勇気が湧いてきたのだろう。
 ふたりで、強気にこう叫んだ。

「それに、ぼくらのいとこのお兄ちゃんが、言ってたよ! 『ちっちゃいおっぱいはステータスだ』って!」

「そうだ、そうだ! ちっちゃくたって、りっぱなんだぞ! きしょうかち(・・・・・・)なんだぞ!」

 奈津美先輩が、先程とは別の涙を流しながら泣き崩れた。
 まさか味方の子供たちから最大の一撃をもらうとは……。膝を抱えた奈津美先輩があまりにも憐れ過ぎて、思わず同情してしまった。ご愁傷様です。
 というか従兄弟のお兄さんとやら、あんた、こんな小さい子供たちに何を吹き込んでいるんだ!

「あー、うん。そうだね。君たちの言いたいことはよくわかった。僕ももうお姉さんを怒らないから、ちょっと落ち着こうか」

 でないと、そのお姉さんが本当に本気で再起不能になっちゃうからね。君たちが良かれと思って言っている言葉、全部お姉さんに跳ね返っているから。この人、能天気なくせに変なとこで繊細だから、もうそっとしておいてあげて!