「勝負は一冊。より早く綺麗に仕上げた方が勝ち。いいわね」

「望むところです」

「その余裕がいつまで続くかしら? それじゃあ……よーい、ドン!」

 奈津美先輩の掛け声で、同時に装備を開始する。

 まずは、各種ラベルと磁気テープ貼るところからだ。ラベル貼りについては、図書委員で鍛えた僕に、一日の長がある。素早く所定の位置にラベルを付けた僕が、一歩リードして磁気テープ貼りまで終えた。

 残すは最難関のビニールフィルムだ。陽菜乃さんの手さばきを思い出しながら、迅速かつ慎重に作業を進めていく。

 だけど、気泡が入らないようにフィルムをつけていくのって、結構難しい。
 陽菜乃さんは難なくこなしていたけど、これって慣れていないとかなり神経を使う。
 でも、ここで焦ってはいけない。ここまではうまくいっているのだから、引き続き丁寧にやっていかねば……。

「できました!」

 と、その時だ。僕が手間取っている間に、奈津美先輩が手を上げた。
 えっ? もう装備を終えたのか、この人。

「栃折さん、早いわね。どれどれ?」

 得意げな奈津美先輩が仕上げた本を手に取り、陽菜乃さんが出来を確かめていく。
 その顔が、みるみるうちに驚きに染まった。

「さすがは栃折先生のお孫さんね。初めてとは思えないくらい上手」

「えへへ。ありがとうございます」

 本を作業台においた陽菜乃さんが、感嘆した様子で奈津美先輩に拍手を送る。
 褒められた奈津美先輩も、満更ではなさそうだ。

「うふふ~。どんなもんよ~」

「ぐぬぬ……」

 勝ち誇る奈津美先輩を尻目に、奥歯を噛み締めた。
 速さでは完全に負けた。あとは綺麗さだけど……。
 僕も作業の手を止めて、先輩が装備し終えた本を見せてもらう。陽菜乃さんの言う通り、気泡ひとつ入っていなくて、一目で完璧とわかる仕上がりだった。
 さすがは製本家の卵だ。初めてでこの出来とは、僕とは器用さの質が違う。