「そう。まあ、いいけど……。あんまり羽目を外しちゃダメよ。これ、一応取材なんだから」

「ハハハ。僕が羽目外し過ぎて暴走するなんてこと、あるわけないじゃないですか。先輩じゃあるまいし」

 やだなぁ、もう! と、奈津美先輩に向かってパタパタと手を振り、はたと気が付いた。
 あ、ヤバい。テンション上がっていた所為で、また口が滑った……。
 瞬間、奈津美先輩の白いこめかみに青筋が浮き上がった。

「ほほう、そうですか。私じゃないから大丈夫ときましたか……。いいでしょう。なら、証明してもらいましょうか」

「……どういう意味ですか?」

「本の装備、私とどっちが上手にできるか勝負よ!」

 怒りモードで笑う奈津美先輩が、ビシッと人差し指を僕に突きつけてきた。

 一方、僕と陽菜乃さんは数瞬の間、言葉を失った。

 いや先輩、わけわかりませんから。羽目を外していないことの証明が、どうして勝負になりますか?
 ほら、先輩のとんでも理論に、陽菜乃さんも苦笑していますよ。
 まったくこの人は、いっつもわけがわからないことを言い出すんだからなぁ……。大方、ディスられた仕返しに僕を勝負で負かして、悔しがらせてやろうとか考えたんだろう。

 はぁ……、本当に仕方ない人だな。取材中に勝負だなんて、そんなもの――。

「……乗った!」

 ――受けて立つに決まっているじゃないか。

 奈津美先輩の超理論なんて今さら知ったことではないが、司書を志す者として、この勝負は逃げられない。こうなったら期末前の時と同じく返り討ちにしてやる。
 僕は、思いがけない展開に呆然としている陽菜乃さんへ声を掛けた。

「陽菜乃さん、装備の仕方、教えてください!」

「え? ええ……」

 戸惑いがちに頷いた陽菜乃さんが本を一冊取って、説明を交えながら装備を実演していく。手慣れた様子の淀みない動作だ。お手本として申し分ない。
 僕と奈津美先輩は、陽菜乃さんの手元を食い入るように見つめた。脳内のハードディスクに動画を保存する勢いで、手順と陽菜乃さんの動作を記憶していく。

「えっと、こんな感じなんだけど……。何か質問はある?」

「「いえ、大丈夫です!」」

 きっかり五分で説明と作業を終えた陽菜乃さんへ、僕たちはふたり揃って首を振った。
 陽菜乃さんが分かりやすく実演してくれたおかげで、作業工程はよくわかった。あとは、実践……じゃない。実戦あるのみだ。
 僕らは各々一冊の本を手に取り、作業台の前についた。