「悠里君、うるさい!」

「あいたっ!」

 突然、奈津美先輩が僕の頭をポカリと叩いた。見れば、奈津美先輩は何だかご機嫌斜めな様子だ。口をへの字に曲げている。

「みなさん、仕事中なのよ。もう少し、TPOを弁えなさい」

「あ……すみません。つい、うれしくなってしまって……」

 きつめの口調で叱って来る奈津美先輩に、平謝りする。どこか八つ当たりめいた気配も感じるけど、僕の行動がまずかったのも事実だ。ここは素直に謝るのが吉だろう。
 いつもは僕が暴走する奈津美先輩を諭す役目だから、立場が逆転してしまったな。見方によっては、新鮮と言えるかも。

「わかればいいのよ。私たちは学校を代表してきているようなものなんだから、気をつけてね」

「すみません……」

 僕がもう一度謝ると、奈津美先輩は「フン!」と鼻を鳴らして背中を向けた。

「……真菜さんの時といい、美人とみるとすぐに鼻の下を伸ばすんだから」

「え? 先輩、何か言いましたか?」

「何も言ってません!」

 何かボソボソ呟いていた気がしたので聞いてみただけなのに、なぜか怒鳴られてしまった。
 奈津美先輩の今の声だって、十分迷惑だと思うけどな。不機嫌オーラをこれでもかと言うほど放っているので、言えないけど……。

「ごめんね、栃折さん。最初に私がはしゃいじゃったのがいけないのよ。そんなに一ノ瀬君を叱らないであげて」

「いいえ、陽菜乃さんは悪くありません。悪いのは、全部ぜーんぶ悠里君です!」

 思いっきり断言されてしまった。まるで諸悪の根源とでも言いたげだ。僕、そこまで悪いことしただろうか。
 フォローしようとした陽菜乃さんも、ちょっと困った顔をしている。

「と、とりあえず、行きましょうか。早くしないと、午前中にインタビューを終えられなくなっちゃうかもしれないし」

「そ、そうですね。急ぎましょう!」

 努めて明るく言う陽菜乃さんに乗っかって、僕も大仰に頷く。今は一刻も早く、奈津美先輩の意識を別のことへ向けるべきだ。
 うちの部長の機嫌がこれ以上悪くならないよう、僕たちはさっさと会議室に駆け込んだ。