「じゃあ、立ち話もなんだし、場所を移しましょうか。私について来てくれる?」

 ふわりと微笑む陽菜乃さんの後について、図書館のバックヤードに入って行く。
 バックヤードにはいくつものデスクが並び、職員がパソコンに向かっていた。それぞれのデスクには、本が何冊も積まれている。見た感じ、購入して届いたばかりの本のように思える。どんな本を受け入れているのか気になるところだ。

 それにしても、この光景を見ているだけで胸が躍ってくる。僕もこの一員になりたい。

 ――あ、よく見れば奥の方で本の表紙にビニールフィルム掛けてる。うちの図書室ではやってないんだよな、あれ。ヤバい、ちょっとやってみたいかも。
 隣でやっているのは、本の修理か。あれは一週間前に嫌というほどやったので、パスの方向で……。

「もしかして一ノ瀬君、図書館司書志望なの?」

 バックヤードをキョロキョロと見回していたら、陽菜乃さんが声を掛けてきた。
 一発で志望先まで見抜かれるほど、夢中になっていたらしい。少し恥ずかしい。

「ええ、まあ。叔父さんの影響で小さい頃から……。今は司書として就職できるよう、勉強に力を入れているところです」

 とりあえず、照れることなく普通に応答することができた。自分の精神力と面の皮の厚さを褒めてあげたい。

「そっかぁ。ついに私が作った書籍部から、ふたり目の司書が出るかもしれないんだ。なんかすごくうれしいかも」

 一方、陽菜乃さんは幸せそうに頬を緩めている。自分と志を同じくする後輩が現れたことに、感動しているようだ。
 陽菜乃さんは目を輝かせながら、続けてこう言ってくれた。

「一ノ瀬君、私に協力できることがあったら、何でも言ってね。大学に入って就活が近づいてきたら、面接対策とかやってあげるから」

「本当ですか! ありがとうございます!」

 思わず大きな声でお礼を言ってしまい、職員の注目を集めてしまった。みんな、驚いた顔で僕のことを見ている。
 けど、そんな注目も今は気にならない。陽菜乃さんの申し出は、僕にとって何よりもうれしいサプライズだ。ただでさえ競争倍率が厳しい司書を目指す上で、このアドバンテージは大きい。陽菜乃さんが書籍部の初代部長であった奇跡を、僕は図書館の神様に感謝した。