で、そんなおそらくこれまでの人生で最も色濃かった夏休み初日から、一週間後。
 僕と奈津美先輩は、ふたりにとっての思い出の場所、市立図書館の前に立っていた。
 今日から三日間、僕らはここでボランティアを行うことになっている。OG訪問&職場体験のパート2だ。

「あ~、この図書館に来るのって、すごく久しぶり。小学生の頃に戻ったみたいで、ドキドキしちゃう」

 奈津美先輩は、久しぶりに来た市立図書館にテンションが高まっているご様子。先日の怒りなんかすっかり忘れ、大いにはしゃいでいる。
 もっとも、かく言う僕も、少し気分が高揚している。奈津美先輩とふたりで市立図書館に来ると、やはりここが自分にとっての原点で、大切な場所なのだとわかるからだ。

「それじゃあ悠里君、張り切っていきましょう!」

「はい!」

 ふたり揃って、図書館の自動扉をくぐる。とりあえず貸出カウンターへ行って来意を告げると、奥からふたりの男女が出てきた。

「よう、悠里。よく来たな」

「叔父さん、ご無沙汰してます」

 男性の方が、気さくな笑みを浮かべながら、僕に向かって手を上げる。
 一ノ瀬(いちのせ)修二(しゅうじ)。僕の叔父で、浅場市立図書館サービス課の課長を務める現役の図書館司書だ。
 今回の職場体験では、書籍部からの依頼に対して図書館側の許可を取り付けてくれるなど、すでに色々と協力してくれている。

「今回は本当にありがとう。僕らの部の企画に協力してくれて」

「なーに、気にするな。こういうのは、持ちつ持たれつだ。こっちも、忙しい時期に気兼ねなくタダでこき使えるボランティアは、有り難い限りだからな!」

 叔父さんが、僕の背中をバンバン叩く。明け透けで裏表のない人なのだ。僕も、叔父さんのそういうフランクなところに憧れている。僕が司書を目指そうと思ったのだって、元を正せば叔父さんと同じ職業に就きたかったからだ。ある意味、僕にとって理想の人物と言える。

「一ノ瀬さん、お久しぶりです。今日から三日間、お世話になります」

「おお、奈津美ちゃんか。大きくなったね。栃折先生はお元気かな?」

「ええ。今日も『一ノ瀬さんたちに迷惑を掛けないように』ときつく申し付けられました」

「いやいや、こちらこそ栃折先生にはお世話になりっぱなしだからね。今回は、精一杯協力させてもらうよ」

「どうもありがとうございます」

 奈津美先輩が、楚々と微笑む。見た目だけなら良いところのお嬢さんといった感じの人だから、こういう仕草は本当によく似合う。はっきり言って、可憐だ。
 もっとも、僕の感想は「先輩、猫被っているなぁ~」だけれども……。まあ、突飛な行動を起こされるよりもましだから、このまま最後まで猫被りを貫いてもらおう。