だけど、性格はちょっとアレになってしまっても、奈津美先輩は奈津美ちゃんのままだった。僕が並び立ちたいと願った、あの日の奈津美ちゃんと同じだった。

 だから僕は、今もあの人の隣に立っている。いつか本当の意味で、奈津美先輩に並び立てる日を――約束が果たされる日を夢見て……。
 僕は隣に座る真菜さんへ、宣誓するようにはっきりと告げる。

「今の僕があるのは、小学生の時に奈津美先輩と出会ったおかげです。先輩のひた向きな強さに触れることができたから、僕も自分の夢を必死に追う覚悟を固められた。だから僕にとって先輩は、今でも大切で、尊敬する存在なんです」

 もっとも、学校の上級生としては、その限りではありませんが……と、最後に辛口評価も付け加えておく。
 これで本当に部長や上級生としても尊敬できる人なら、僕も苦労せずに済むのに。神は二物を与えずとは言うけど、世の中うまくいかないものだ。

「そっか……」

 不意に真菜さんが、すっきりした表情で呟く。

「やっぱり君たちは、相性バッチリのパートナーだよ」

「そうですかね。パートナーというよりは、問題児と巻き込まれ被害者の方がしっくりきますが……」

「それもひとつのパートナーの在り方だよ、きっと」

「それ、最悪ですね。被害者側、まったく救われませんよ」

 僕が辟易とした表情を見せると、真菜さんはおかしそうに笑った。
 その時だ。僕の視界が、急に少しだけ暗くなった。何かの影に入った感じだ。何事かと顔を上げたら、腰に手を当てた奈津美先輩が立っていた。
 気のせいかな? 微妙に怒っているように見える。

「ちょっと悠里君! いつまで休憩しているの? 時間は有限なんだから、大事にしないといけないのよ。さあ、続きをやりましょう!」

「あー、はいはい。今行きますから、そんな引っ張らないでください」

 奈津美先輩に手を引っ張られたまま、よっこいしょ、と腰を上げる。
 向かう先に見えるのは、いまだ高くそびえる本の山だ。何だか重々しいオーラを放っているように見える。

「先輩、本当にこれ、今日中に全部終わらせるつもりですか?」

「当然! 終わるまで帰らないんだから」

 腕を組み、仁王立ちで本の山を見据える奈津美先輩。
 あ、これ本気だ。ついでに、僕も終わるまで帰らせてもらえない流れだ。
 こういう時の奈津美先輩は頑固だから、途中で切り上げようという説得は無理だ。テキパキやっていかないと、最終のバスに間に合わなくなる。

 仕方ない。こうなったら、最後までとことん付き合うか。それで、さっさと終わらせてしまおう。どうせ逃げられないんだから……。
 僕は後ろ向きなのか前向きなのかわからない覚悟を固め、やる気十分な奈津美先輩のアシスタントに徹する。

 はてさて、今日の帰宅時間は一体何時になるのかな……?