「あ~、疲れた……」

 精神的疲労がピークに達したところで、僕は一度休憩をもらった。
 結局あの後もずっと、僕は奈津美先輩から本人無自覚の妙な責め苦を受け続けた。ホント、なんなんだろう、これ。新手の拷問か何かかな?

 せめてもの救いは、奈津美先輩のスタイルが貧相だったことだろう。おかげで、胸が腕に当たるといった危険なアクシデントに見舞われずに済んだ。まあ、こんなことを本人が聞いたらカンカンに怒るだろうけど。

 壁際でしゃがみ込み、嬉々として作業を続ける奈津美先輩を見やる。
 元気だなぁ、奈津美先輩。まるで水を得た魚だ。かれこれ一時間以上精密な作業をしているのに、疲れた素振りのひとつも見せない。学校でテスト勉強をしていた時とは大違いだ。好きなことをやっている時は、疲れを忘れてしまうのだろうか。
 ぼんやりと奈津美先輩の手捌きを見ていたら、真菜さんが隣にやって来た。

「お疲れ、悠里君。はい、これ、良かったら」

「ありがとうございます。いただきます」

 真菜さんからペットボトルのお茶を受け取り、一気にあおる。一仕事した後の火照った体に、冷たいお茶が染み渡った。

「よいしょっと」

 ペットボトルの蓋を閉じていたら、真菜さんが隣に座った。ふたり並んで、テキパキと本を直していく奈津美先輩を見つめる。

「ねえ、悠里君」

 すると、不意に真菜さんが話しかけてきた。

「悠里君ってさ、ぶっちゃけ奈津美ちゃんとはどんな関係なの?」

「部活の先輩と後輩です。それ以上でも以下でもありません」

「本当に、それだけ?」

「ええ、それだけです」

 ありのままを答えたら、真菜さんは呆気にとられた顔になってしまった。

 あれ? 僕、何か変なこと言っただろうか。というか、真菜さんはどんな回答を期待していたんだろう。「実は口で言えないような関係です」とでも言うと思ったのだろうか。

 僕が首を傾げていたら、真菜さんは真菜さんで何か考えている風に天井を見上げる。天井にカンペが仕込まれていたわけでもないだろうが、真菜さんはすぐに何か閃いた顔になり、再び僕を見た。

「じゃあさ、悠里君から見て、奈津美ちゃんってどんな子?」

 おお、攻め口を変えてきましたね。相変わらず、どう回答してほしいのかよくわからない質問だけど。
 ふむ、『どんな子』か。あまり考えたことなかったけど、強いて言えばこうなるかな。