「で、でもね悠里君、これはある意味、とても素晴らしいことだと思うの。だって、女の子と勘違いされるくらい端正な顔立ちってことだし! うちのクラスの子たちも、悠里君の写真を見て、『男の娘もいける!』って太鼓判を捺しているのよ。それに悠里君は昔から綺麗な顔で、女の私から見ても羨ましいって思うくらいだったわ!」

「……へぇ、そうですか。だったら、小学生の頃から全然変わっていない先輩の胸囲も、大変素晴らしいってことですね」

 小声で呟いてみたら、奈津美先輩がピシリと音を立てて固まった。

「ひ、ひどい! ちゃんと変わってるもん。少しは成長しているもん!」

「それ、単純に肋骨が成長した分増えただけですよ、きっと」

「なんてことを……。悠里君、顔と違って性格ひん曲がり過ぎよ! 白雪姫の継母やシンデレラの姉みたい!」

「どっちも女性じゃないですか! あなたも人のこと言えないですよ!」

 醜い罵り合いを演じ、荒い息をつく僕と奈津美先輩。互いのコンプレックスを叩き合って、ふたりとも心がすっかりグロッキーだ。
 そんな書籍部の後輩たちの姿を目の当たりにし、真菜さんはおかしそうに「あはは!」と笑った。

「ふたりとも、おもしろいね。いつもそんな風に漫才してるの?」

「「していません!」」

 真菜さんに抗議するように言い返すと、奈津美先輩と声が重なってしまった。台詞までバッチリ一緒だ。何となく恥ずかしくなって、これまたふたり揃って顔を赤くする。
 すると真菜さんは、「息ピッタリだ」とさらに大きな声を上げて笑った。
 もはや色々とドツボだ。何を言っても漫才になってしまう。

「いや~、おもしろいものを見せてもらっちゃった。ふたりとも、ありがとう!」

 望まない感謝を受けた僕たちは、これでダブルノックダウン。醜い部内闘争は、こうして呆気なく幕切れとなった。