宮野先輩に見送られ、カウンターから出る。
 これで今日のお勤めは終わったようなものだ。後はいつも通り、昼休みが終わるまで、のんびり弁当を食べていればいい。
 だけど、何の変哲もない日常というものは、得てして唐突に破られるもので……。

 ――バタンッ!

 僕がカウンターから出たのと、まったく同時。出入り口の方から大きな音がして、図書室の静寂が打ち破られた。
 いや、見方によっては真の静寂が作られたとも言えるかもしれない。なぜなら、図書室内にいた全員が驚いた顔で動きを止めたのだから。

 ともあれ、おそらく今のは勢いよく開けられた扉が壁にぶつかった音だろう。扉にはめられているガラスにヒビが入っていないか、心配である。

 まあ、それはとりあえず横に置いておこう。
 大きな音に次いで、静まり返った図書室内にパタパタという軽やかな足音が響いた。
 何だか聞き覚えのある足音である。というか、この足音は間違いない。この騒動の元凶は、絶対にあの人だ。

 この学校の図書室は、カウンターから出入り口が見えない。出入り口とカウンター奥の準備室が横に並ぶ配置のため、背が高めの間仕切りがあるのだ。

 よって数瞬の間、足音の主が姿を現すのを待つ。間仕切りの陰から姿を現したのは、やはり僕の予想通りの人物だった。
 背中に流れる黒髪と、黒曜石のような黒い瞳。新雪のように白い肌と華奢な体。黙って立ってさえいれば、お淑やかな深窓の令嬢に見えなくもない女子生徒である。
 ただし、今は興奮した様子でその白い頬をピンク色に上気させている。瞳は爛々と輝き、口元も笑みを抑え切れないといった様子だった。感情を隠すのが苦手な人なのだ。
 ついでに言うなら、一度動き始めると、周りが見えなくなる人でもある。現に今も、周囲から向けられる奇異の視線に気付きもせず、図書室内をキョロキョロと見回している。

「あ、いた! おーい、悠里君!」

 黒曜石の瞳に僕の姿を映し、彼女が大きく手を振ってきた。自然、図書室中の視線が僕の方に集まる。
 恥ずかしいから、本当にやめてほしい。というか、隣から感じる宮野先輩の同情するような視線が心に痛い。