あれは、文集会議の翌日。「家庭教師のお礼のケーキを奢るわ!」と奈津美先輩に連れられ、学校帰りに喫茶店に寄った日のことだ。
 静かで落ち着いた雰囲気を醸し出した店内で、ボックス席に案内された僕たちは、ティーセットを頼んだ。
 そしてその数分後、注文を取ったのと別のウエイトレスがやって来て、こう言ったのだ。

『本日、レディースデイとなっておりますので、こちらサービスのスコーンになります』

 まあ、ここまではいい。奈津美先輩も一緒にいるのだから、特に問題はない。
 しかし、このウエイトレスはなぜか僕の前にも(・・・・・)スコーンを配膳したのだ。
 で、僕が『あの、僕、男ですけど……』と言ったら、ウエイトレスは僕の顔と制服(主にテーブルの下に隠れた夏服のズボン)をもう一度よく確認し、慌てた様子で謝ってきたのだ。

『し、失礼いたしました! 綺麗なお顔立ちでしたので、てっきり女性かと!』

 ウエイトレスの謝罪文句に、僕は口をあんぐり、奈津美先輩はお腹を抱えて大笑いだ。
 その後、ウエイトレスは『お詫びの印に……』と、さらにスコーンを追加して去っていった。ちなみに、そのスコーンは物欲しそうにしていた奈津美先輩にあげた。
 今思い出してみても、あれは僕にとって人生でワースト3に入るであろう黒歴史だ。
 身長が160センチと低くて童顔なことは僕のコンプレックスなのだけど、まさかこの歳で女性に間違われる日が来るなんて……。あの日はショックで、夜遅くまで枕を濡らした。このままだと、今夜も思い出し泣きで濡らすかもしれない。
 そんな僕視点ではとても悲惨な出来事を、この人はペラペラと……。しかも、十日も経たないうちに……。