てなわけで、夏休み初日。
「先輩、こっちです! 急いでください!」
「ご、ごめんなさい。ちょっと家を出るのが遅くなっちゃって……」
すったもんだと色々あったけど、無事にこの日を迎えられた僕たちは、浅場駅隣接のバスターミナルで合流した。
と言っても、奈津美先輩は五分の遅刻だけど。駅から走ってきたのか、息を切らした奈津美先輩は、膝に手をついて呼吸を整えている。……と思ったら、立ち止まったことで一気に疲れが襲ってきたのか、その場にへたり込んでしまった。
駅からここまで、二百メートルもないはずなんだけどなぁ。まあ、階段があるから、高低差は多少あるけど。それにしたって、体力がなさ過ぎることに変わりはない。本当に奈津美先輩は、文化系の象徴のような人だ。
「ほら、これでも飲んで、落ち着いてください」
「あ、ありがとう……」
買ったばかりのお茶のペットボトルを、奈津美先輩に差し出す。
奈津美先輩はそれを震える手で受け取り、蓋を開けようとしたけど……力が入らなくてうまく開けられないらしい。
仕方ないので、もう一度ペットボトルを預かり、蓋を開けて渡してあげる。
そうしたら、奈津美先輩は一息で三分の一ほどのお茶を飲んでしまった。
「ふぅ……。ありがとう、悠里君。おかげで助かったわ」
「いえいえ。お役に立てたようで何よりです」
ペットボトルの蓋を締めながら、ようやく回復したらしい奈津美先輩が立ち上がる。
今日は学校ではないので、奈津美先輩の装いは見慣れた制服ではなく、白の半袖ブラウスに七分丈のデニム、白のスニーカーという出で立ちだ。背中には紺色のおしゃれなリュックを背負っている。今日の取材と職場体験を考慮して、動きやすい服装にしてきたのだろう。髪もふたつに束ねておさげにしている。
何となくだけど、今の先輩は制服の時よりも大人っぽく見える気がする。制服マジックという言葉は聞いたことがあるけれど、私服マジックもあり得るのだと、僕はたった今知った。
「ん? どうかしたの、悠里君?」
「あ、いえ、別に……」
普段とは違う奈津美先輩の服装が珍しくて、思わず見入っていました。とは、さすがに言えない。いや、言いたくない。絶対つけあがるし、何より恥ずかしいから。よって、僕は曖昧に誤魔化して、奈津美先輩から目を逸らした。
よくよく考えてみれば、奈津美先輩と休みの日に会うのは、小学生の時以来だ。ふたりきりなのは部室でも同じなのに、今は少し緊張する。顔が火照っているのは、日差しの強さのせいだけではないだろう。
「そんなことより、さっさと行きましょう。到着が遅れたら、向こうの人たちに失礼です」
「うん、そうね」
「先輩、こっちです! 急いでください!」
「ご、ごめんなさい。ちょっと家を出るのが遅くなっちゃって……」
すったもんだと色々あったけど、無事にこの日を迎えられた僕たちは、浅場駅隣接のバスターミナルで合流した。
と言っても、奈津美先輩は五分の遅刻だけど。駅から走ってきたのか、息を切らした奈津美先輩は、膝に手をついて呼吸を整えている。……と思ったら、立ち止まったことで一気に疲れが襲ってきたのか、その場にへたり込んでしまった。
駅からここまで、二百メートルもないはずなんだけどなぁ。まあ、階段があるから、高低差は多少あるけど。それにしたって、体力がなさ過ぎることに変わりはない。本当に奈津美先輩は、文化系の象徴のような人だ。
「ほら、これでも飲んで、落ち着いてください」
「あ、ありがとう……」
買ったばかりのお茶のペットボトルを、奈津美先輩に差し出す。
奈津美先輩はそれを震える手で受け取り、蓋を開けようとしたけど……力が入らなくてうまく開けられないらしい。
仕方ないので、もう一度ペットボトルを預かり、蓋を開けて渡してあげる。
そうしたら、奈津美先輩は一息で三分の一ほどのお茶を飲んでしまった。
「ふぅ……。ありがとう、悠里君。おかげで助かったわ」
「いえいえ。お役に立てたようで何よりです」
ペットボトルの蓋を締めながら、ようやく回復したらしい奈津美先輩が立ち上がる。
今日は学校ではないので、奈津美先輩の装いは見慣れた制服ではなく、白の半袖ブラウスに七分丈のデニム、白のスニーカーという出で立ちだ。背中には紺色のおしゃれなリュックを背負っている。今日の取材と職場体験を考慮して、動きやすい服装にしてきたのだろう。髪もふたつに束ねておさげにしている。
何となくだけど、今の先輩は制服の時よりも大人っぽく見える気がする。制服マジックという言葉は聞いたことがあるけれど、私服マジックもあり得るのだと、僕はたった今知った。
「ん? どうかしたの、悠里君?」
「あ、いえ、別に……」
普段とは違う奈津美先輩の服装が珍しくて、思わず見入っていました。とは、さすがに言えない。いや、言いたくない。絶対つけあがるし、何より恥ずかしいから。よって、僕は曖昧に誤魔化して、奈津美先輩から目を逸らした。
よくよく考えてみれば、奈津美先輩と休みの日に会うのは、小学生の時以来だ。ふたりきりなのは部室でも同じなのに、今は少し緊張する。顔が火照っているのは、日差しの強さのせいだけではないだろう。
「そんなことより、さっさと行きましょう。到着が遅れたら、向こうの人たちに失礼です」
「うん、そうね」