「さあ、これから忙しくなるわよ。まずは文集のテーマを決めて、原稿を書かなきゃ。大体は私の方で決めてきたから、悠里君の意見を聞かせてね。今年は、体験レポート特集にしようと思うの。きっと悠里君も気に入ってくれると思うわ」

 春に芽吹く花々のように、奈津美先輩は朗らかに笑う。文集の話をする奈津美先輩は本当に楽しそうで、僕まで自然と笑顔になってしまった。

「今年の夏休みは充実したお休みになりそうね。悠里君、ハードな夏になると思うから、覚悟しておいてね!」

「わかりました。先輩も、今度の期末テストで追試なんて食らわないようにしてくださいね」

「…………え?」

 僕の言葉を聞いた瞬間、奈津美先輩が笑顔のままピシリと固まった。石像にでもなったかのように、ピクリとも動かない。
 と思ったら、急に顔を伏せてしまった。サラサラした黒い前髪の奥に、表情が隠れる。
 なんだろう、これ。何とも不安を掻き立てるような反応だ。

「あの、先輩……?」

 恐る恐る、奈津美先輩の表情を窺う。
 思いっきり顔を逸らされた。先輩が顔を向けた方へ視線を向けると、別の方向へ顔逸らす。そんなことを数回繰り返していると、とうとう奈津美先輩は、まるで僕から逃げるように後ろを向いてしまった。

「先輩、つかぬことをお聞きしますけど……本当に大丈夫ですよね?」

 不安に耐え切れずに声を掛けてみたら、奈津美先輩の華奢な肩がピクリと揺れた。揺れはそのまま、震えに変わっていく。

 なんなんだ、この緊張感は。例えるなら、火山が噴火する直前のような……。
 妙なプレッシャーに、僕は思わず息を飲む。
 すると、何やら色々と爆発させた奈津美先輩が、振り向き様に僕の胸へ飛び込んできた。