「第一、小学生の時に約束したじゃないですか。先輩が本気で製本の取り組もうとするなら、僕は必ず先輩を支持します」

 これは、純粋に僕の本心だ。この気持ちだけは、小学生の頃から少しも変わらない。奈津美先輩が製本家を目指し続ける限り、僕は絶対に味方につく。あの夏、僕はそう誓ったから。

 ただ、正直に言うと、今のセリフは結構恥ずかしかった。自分の顔が火照っているのが、よくわかる。いくらなんでも、今のはサービスし過ぎたかもしれない。この分の帳尻は、またどこかで合わせるとしよう。
 けれど、今回については恥ずかしい思いをした甲斐あって、奈津美先輩はすっかり機嫌を直したらしい。完全復活した。

「……フッフッフ! さすがは書籍部のエース、私の自慢の後輩ね。悠里君なら必ずそう言ってくれるって、私は信じていたわ!」

 抱えていた膝を伸ばし、奈津美先輩がソファーからピョンと立ち上がる。野生動物のような警戒心もどこかへふっ飛び、目論み通りといった顔だ。この人、本当に調子がいいなぁ。

 もっとも、これがきっかけで二年前のように暴走されては困る。多方面に迷惑が掛かるし、一番面倒な思いをするのは確実に僕だ。
 よって、ひとつの条件を出させてもらうことにした。

「ただし、今回はぼくも一緒に製本をやらせてください。材料の買い付けも、一緒に付いていきます。そうすれば、きっと同じ失敗をしないで済みますよ」

「もちろんよ! ふたりで素晴らしい作品を作りましょう!」

 奈津美先輩が、満面の笑顔で鷹揚に頷く。
 完全に僕を信用している様子だ。これなら、ちゃんと僕の言葉を聞いてくれるはず。本人も一昨年の失敗を踏まえて装丁の設計をしているようだし、たぶん今回は大丈夫……だと思う。

 けど、暴走状態の奈津美先輩は、行動が読めないからな。何を仕出かすかわからない。僕がしっかり監視しておかないと……。
 すると、奈津美先輩が僕のシャツの袖を引っ張ってきた。