僕が念押しするように問いを重ねると、奈津美先輩はすねた様子で唇を尖らせた。

「あの時は確かに私が悪かったけど……みんな、一度の失敗を引きずり過ぎなのよ。もう少し大らかな気持ちを持ってほしいものだわ」

「先輩の失敗は、僕ら一般人からすると立派な大惨事なんですよ。第一、先輩がやらかした失敗は、それひとつじゃないでしょうが」

 言葉とともに、今日何度目になるかわからないため息が出てきた。ホント、書籍部に入ってからというもの、この人に振り回されっぱなしだ。

 一方、呆れ顔の僕を見て、奈津美先輩は完全にふてくされモードに突入してしまったらしい。ムスッとした顔で突っかかってきた。

「ちょっと悠里君、今のは聞き捨てならないわね。私がいつ、何をやらかしちゃったっていうの?」

「先輩、それは自虐ネタのフリか何かですか?」

「ま、真顔で言った……。ゆ、悠里君、仮にも先輩に対して、その物言いはひどいんじゃない? 日々お世話になっている先輩への尊敬が、足りていないと思わない?」

「先輩こそ、日々面倒事に巻きこんでいる後輩への配慮が、足りてないとは思いませんか?」

「あ、ああ言えばこう言う……」

「先輩、自覚してください。先輩は校内でも割と有名人なんですよ……トラブルメーカーとして」

 そして僕は、そんな奈津美先輩の手下A扱いです。なぜか生徒会から、準危険人物としてマークされています。もちろん奈津美先輩は、文句なしのAランク危険人物として、ブラックリスト入りしています。……とは、口に出さなかった。先輩思いの後輩だと、自分を褒めてあげたい。

 けど、僕の思いやりも空しく、奈津美先輩の堪忍袋の緒が切れた。

「むっかーっ! いいわ。そこまで言うなら、受けて立とうじゃない。私と悠里君、どっちが傍若無人で厚顔無恥か、はっきりさせましょう。さあ、私がやらかした失敗とやらを言ってみなさい!」

 むしろ自分からケンカをふっかける勢いで、先輩が噛みついてきた。「言えるものなら言ってみろ!」と言わんばかりの挑戦的な視線を、僕に向けている。……どこからこの自信が湧いてくるのだろう?

 まあいいや。本人が「言え!」と言っているのだし、よい機会だからきちんと自分の破天荒具合を自覚してもらおう。

 ええと、まずはそうだな……。これからいっておくか。