「ひどい! あんまりよ! 思わせぶりな態度で約束しておいて、飽きたらポイなのね! 女の子みたいに綺麗な顔して、中身は鬼畜外道なのね! 女ったらし! 天然ジゴロ!!」

 地面に伏せた奈津美先輩が、これ見よがしに大きな声で叫びながら泣き始めた。
 当然ながら、騒ぎを聞きつけて再び野次馬が集まってくる。どうやらこれが狙いだったようだ。この人、形振り構わな過ぎだろう!

 そうこうしている内に、野次馬の数は増えていく。突き刺さる野次馬からの白い視線。僕の方を見たり指さしたりしながら、ヒソヒソ話をしている。
 堪らず僕は、奈津美先輩に声を掛けた。

「ちょっ! 何やってんですか、先輩。みんな見ていますから、そんなみっともないマネ、やめてください」

「書籍部はもうおしまいよ! 今年も入部者0のまま、きっと私の代で廃部しちゃうんだわ~っ!」

 より一層大きな声で、奈津美先輩が喚き立てる。
 どうやらこの人、「死なばもろとも!」といらん覚悟を固めたらしい。先程の妙な威圧感の正体はこれだ。こうなっては、もうテコでも動きそうにない。

 泣きたいのは、僕の方だよ。何で入学早々、こんな目に遭わなきゃいけないんだ……。

 自分の不運を嘆きつつ、僕はもはやヤケクソで叫んだ。

「ああ、もう! わかりましたよ。入ればいいんでしょ、入れば! わかりましたから、さっさとやめてください」

「本当!」

 根負けして僕が折れた瞬間、奈津美先輩はパッと顔を輝かせながら立ち上がった。

「ありがとう、悠里君。君なら、きっと入部してくれるって信じていたわ!」

 僕の手を握り、目をキラキラさせる奈津美先輩。気のせいか、握る手の力がやたらと強い。僕を絶対に逃がさないという強い意志を感じる。

「そうと決まれば、早速部室へ行きましょう!」

「今からですか!? というか、そんな強く引っ張らないでください」

 僕の手を引っ張り、奈津美先輩はポカンとする野次馬の間を抜けていく。
 こうして僕は、抵抗虚しく書籍部の部室へ連行されたのだった。