「……七年前は、もっと素直でかわいい男の子だったのに~。少し会わない内に、どうしてこんなひねくれちゃったのかしら」

「ひねくれたとは何ですか。むしろ、ここまで付き合っているだけでもかなり心が広い部類だと……って、七年前?」

「そうよ! 七年前の夏、市立図書館、製本家、約束!」

 二年生が、キーワードのようにいくつかの単語を並べる。
 そのひとつひとつが僕の脳内に木霊し、ひとりの女の子の姿を映し出した。改めて彼女の顔をまじまじと見てみれば、確かに当時の面影もある。

 いや、でも、まさかな……。

 ありえないと思いつつも、僕は愛想笑いを浮かべて彼女に問い掛けた。

「あの~、つかぬことをお伺いしますが、先輩のお名前は栃折奈津美さんではないですよね……?」

「そうです! 私が栃折製本工房の栃折奈津美です!」

 両手を腰に当てた二年生が、ぷくっと頬を膨らませる。やっと思い出したのね、と言わんばかりだ。
 一方、僕の方は信じられないものを見たような心地だ。開いた口が塞がらない。もう少し体力が余っていたら、「うっそだ~っ!」と人目も憚らずに叫んでいたかもしれない。 

 確かに僕は七年前の夏、一週間だけ栃折奈津美という女の子と遊んでいた。けれど、当時の奈津美ちゃんは、芯は強いけどあまり自己主張しない、大人しい子だった。間違っても人前で腰にしがみつくような奇行をする子ではなかったはずだ。

「……まさか、偽物?」

「失礼ね。正真正銘、本人です」

 二年生が、ブレザーの胸ポケットから生徒手帳を取り出し、中を見せてきた。そこには確かに『栃折奈津美』という名前と、彼女の顔写真がある。
 何だか昔の思い出が崩れていく気がして、眩暈を起こしそうだ。
 そんな僕の心情に気づくこともなく、奈津美ちゃん改め奈津美先輩はなぜか勝ち誇った顔で、またもや超理論を展開し始めた。

「まあいいわ。さあ、これで納得できたでしょう? あなたはこの高校に入学したその時から、書籍部に入る運命だったのよ」

「いえ、わけがわかりませんから。先輩があの『奈津美ちゃん』だってことはわかりましたが、それとこれとは話が別です。僕、そろそろ勉強の時間なので失礼します」

 適当な理由をつけて帰ろうとしたら、また腰にしがみつかれた。

「七年前に約束したじゃない! まさか忘れたの!?」

「あの〝約束〟なら覚えていますが、〝書籍部に入る〟という約束を交わした覚えはありません!」

 再び奈津美先輩を引き離しながら、こちらも必死に反論する。
 すると、奈津美先輩も今度は意外とすんなり手を離してくれた。ただし、何だか様子がおかしい。先輩から、覚悟を決めた人間特有のオーラみたいなものを感じる。

「いいわ。それなら私も、最後の手段を取るから」

「は? 最後の手段?」

 嫌な予感を覚えながら尋ね返す。
 対する奈津美先輩は桜色の唇をニヤリと吊り上げ、おもむろに地面にうずくまった。