テーブルには、青い表紙の文集と虹色の表紙の小さな本が重ねて置いてある。僕は上に載せてあった虹色の本を手に取り、とあるページを開いた。奈津美先輩と勝負した日、付箋が貼られていたページだ。
 そこには奈津美先輩が僕に宛てて書いてくれた、短いメッセージがあった。

【悠里君へ

 昔、悠里君は私に『素敵な本をたくさん作ってね』と言いましたよね。私はこれから、悠里君との約束を果たすために、たくさん修業してきます。そして、立派な一人前の製本家になって、必ずここに――一人前の司書になった悠里君の隣に戻って来ます。だって、悠里君の隣が私にとって本当にいたい場所だから……。

 それでね、私がフランスに行っている間、悠里君にひとつ宿題を出そうと思います!

 悠里君、この本は私がいない間、私の代わりに悠里君と共に過ごしてほしいと思って作りました。製本家・栃折奈津美が、誰かひとりのことだけを想って作った最初の作品です。

 だけど、この本の中身はまだ白紙。名前もありません。だから、私が戻ってくるまでに、この本にあなたの物語を綴ってください。小説でも、日記でも、詩でも、何でもいいの。あなたの言葉を記して、この本を本物の〝素敵な本〟にして、私に届けてください! 

 あなたが本当に私の本をみんなに届けられる人になったか、それでテストします。
 次に会う時、立派な司書になったあなたがこの本を届けてくれることを、心の底から願っています!

 栃折奈津美】

 奈津美先輩のメッセージをもう一度読み返して、思わず苦笑してしまう。

 本当に最後の最後まで、責任重大な宿題を残してくれたものだ。司書になるだけでも大変なのに、後輩遣いが荒いったらありゃしない。

 でも――。

「任せてください、先輩」

 旅立ったあの人に向けて、僕は手向け代わりに了承の言葉を贈る。
 先輩だけじゃない。僕だって、もう覚悟は決めたんだ。自分も夢を叶えた上で、どこまでだってあの人と一緒に歩いていくって。まあこの宿題が、その第一歩ってところだ。

 虹色の本を閉じて、青の文集と一緒にカバンへしまい、資料室を後にする。

 ここからは、またしばらくひとりで歩く道だ。
 でも、不安はない。この道の先で、必ずまたあの人に会えるってわかっているから。
 あの人と同じように胸を張って、僕は最初の一歩を踏み出した――。