「『すべての本にその読者を』。先輩が製本した本は、僕が司書として〝本を愛する誰か〟と引き合わせます」

 有名な図書館学者の言葉を引用しながら、改めて誓いの言葉を告げる。現実的に難しくても、約束に対する気持ちと決意だけは変わらない。それは僕が司書を目指す上で、なくてはならない原動力だから。

 うれしそうに頷いた奈津美先輩が、僕に向かって一歩近付いてきた。そして、もたれるように僕の胸に自分の額を押し当てた。

「悠里君は、おじいちゃん以外で初めて私の夢を肯定してくれた。それどころか、悠里君は私に、私の夢の先まで見せてくれた。あの時から、あなたは私にとって、誰よりも特別な男の子になった」

 触れ合った部分から染み入るように、僕の胸の中が奈津美先輩の言葉で満たされていく。
 奈津美先輩の言葉は、さらに続く。

「悠里君、昨日、私のことを好きだって言ってくれたわよね。あの時は驚いて何も答えられなかったけど、今ならはっきり言えるわ」

 奈津美先輩が、僕の胸から頭を持ち上げる。僕と奈津美先輩は身長が二センチしか違わない。とても近いところに、大好きな人の顔がある。
 至近距離から僕を見つめ、奈津美先輩は宣言通りはっきりとこう言った。

「私も悠里君のことが好きよ。あの約束の日から、一日も忘れたことはない。それに、これからもずっとずっと、あなたのことが大好きです」

 奈津美先輩の告白に、僕は胸が詰まりそうになった。
 僕が生まれて初めて受けた告白は、生まれて初めて好きになった人からのものとなった。こんなに幸せな奇跡は、きっともう二度とないだろう。そう思えるくらい、僕の心は満たされていた。

「ありがとうございます。それと、僕も先輩のことが好きです。大好きです。昔も、今も、これからも、ずっと先輩のことを想い続けます」

 目の前では、奈津美先輩が頬をほんのり赤く染め、満開の桜のように可憐な笑顔を見せている。自分にだけ向けられたその笑顔に、顔が熱くなる。
 ただ、奈津美先輩は残念そうに少しだけ顔を伏せた。

「でも、今は少しだけお別れね。私は私の、悠里君は悠里君のやるべきことがあるもの。だから――これは手付代わりよ」

 そう言って奈津美先輩は、不意に顔を近づけてきた。突然のことに驚く暇もなく、奈津美先輩の桜色の唇が僕の唇と重なった。溶けてしまいそうなほど柔らかな感触が、唇に伝わる。時間にして、ほんの一秒ほど。まるで夢か幻のようなキスを終え、奈津美先輩が少し名残惜しそうに体を離した。

 一方の僕はというと、突然のことに頭がショートしていまい、その場で呆然と立ち尽くしてしまった。