『だったら、奈津美ちゃんが作った本は、僕が司書になってみんなに届けるよ』

『悠里君が、私の本を?』

『うん! さっきも言ったじゃん。司書は、人と本を結ぶんだ。だから、奈津美ちゃんが作った本をひとりぼっちになんかさせないよ。一冊残らず、僕が誰かとつないでみせる!』

 そこまで自信満々に言い切った僕は、ふと奈津美ちゃんが口を開けて呆けているのに気が付いたのだ。
 もしかして、僕はすごく迷惑なことを言っちゃったのだろうか。唐突にそう思えて自信をなくした僕は、『ダメ……かな?』と遠慮がちに奈津美ちゃんを見つめた。
 そうしたら、奈津美ちゃんは堪え切れないとでもいうように全力で首を横に振ってくれた。

『ううん、そんなことない! すごくうれしい。約束だよ。私が作った本、きっと誰かに届けてね!』

『うん、約束する! だから奈津美ちゃんも、素敵な本をたくさん作ってね!』

 そう言って、僕は奈津美ちゃんと小指を絡めた。奈津美ちゃんが製本して、僕が守り届けていく。この瞬間、僕たちにとって何よりも大切な約束が生まれたのだ。

 子供同士の他愛ない口約束。取るに足らない子供たちの戯言。傍から見る人には、そう思われてしまうかもしれない。けど、僕にとっては、そして多分奈津美先輩にとっても、この約束は夢を追い続けるために必要なものだったんだと思う。

 まあこの約束、そもそも欠陥だらけだしね。司書は確かに人と本をつなぐけど、それはあくまで図書館にある本の話。そして奈津美先輩が作る本は、たぶん図書館には入ってこない。だから、僕が司書になれたとしても、先輩の仕事に関わっていくことは、現実的に難しいだろう。

 それに奈津美先輩はこれから、本を愛する多くの人から直接依頼を受けて、世界に一冊しかない素敵な本を作っていくんだと思う。その時、完成した本は奈津美先輩自身の手から、その本を大切にしてくれる人、一生どころか何代にも渡って寄り添ってくれる人々に手渡されていくはず。きっとそれが、一番いい形なのだ。

 ただ、それでももし奈津美先輩が携わった本を託されることがあったら、僕はそれを守り、みんなに届けたい。僕がいなくなった後も奈津美先輩が製本した本がみんなに愛されるよう、次代につなげていきたい。先輩との約束を――守りたい。
 僕は、微笑みながら奈津美先輩の澄んだ瞳を見つめた。