「けど……やっぱりこの勝負、僕の運が良過ぎたな」

 葛藤から目を逸らすために、ずっと気になっていたことを口にした。

 もうこれを考えて何度目になるかわからないけど、今回の勝負は徹頭徹尾、本当にうまくいき過ぎだ。すべてが僕にとって都合のいいように回っていたと思える。途中で真菜さんたちに出会ったことも、奈津美先輩の制服に木の葉がついていたことも、まるで神様が僕を勝たせようとしているかのごとき運の良さだ。

「でも、これって本当に運が良かっただけなのか……?」

 ふと頭の中に、疑問が浮かんだ。
 いくらなんでも、あらゆる事が上手く運び過ぎている。神様が味方しているかのごとき幸運? いや、ここまで幸運が重なれば、それはむしろ必然のことだったと考えるべきではないか。

「もしかして、僕を勝たせようとした人がいた?」

 口をついて、言葉が出てくる。そんなことを考える人がいるとしたら、ひとりしかいない。
 僕は手の中にある虹色の小さな本を見た。午後の陽光を反射して、本は本物の虹のように輝いて見える。
 その輝きの中で、僕は手に持つ本に小さな付箋が貼られていることに気が付いた。

 胸の中から、まだ終わりじゃないという予感めいたものが込み上がってくる。
 そういえば、先輩は言っていたじゃないか。この勝負の中で、僕に伝えたいことがあるって。僕はまだ、その〝伝えたいこと〟とやらを聞いてはいない。だったら、この付箋のページにあるのが、正にその〝伝えたいこと〟じゃないのか?

 この本を開かなくてはいけない。そんな衝動に急かされながら、僕は付箋が貼られたページを開く。そこには、これまでのメモ用紙と同じく、奈津美先輩の丸っこい字が書かれていた。

 本に書かれた奈津美先輩からのメッセージを、食い入るように読み進めていく。
 そして、なぜこの本がこの木に隠されていたのかを知った僕は、言葉もなくその場で立ち尽くした。